- 名護市長選、宮城康博氏が出馬表明
- 国頭村に工事禁止命令/那覇地裁が仮処分決定
- 最終処分場を強制着工/国頭村辺戸・区民が阻止行動4人けがか
- 「入れて」「帰れ」/建築業者と村が予定地入り/辺戸区民とにらみ合い/国頭村最終処理場
- 反対派、住民不在を指摘/塩屋湾外海埋め立て
- 「北限のジュゴンを見守る会」、名護新基地建設案の即時撤回を政府に要請
- IUCN海牛類議長・ヘレン・マーシュ教授に聞く
- 代替施設協議会で国が提示した三工法八案
- 刈羽村住民投票、プルサーマルを拒否
- ジュゴン、「種の保存法」による「希少種」に指定
名護市長選、宮城康博氏が出馬表明
沖縄タイムス・2002年1月4日朝刊
宮城氏が立候補表明/来月投票、名護市長選
二月三日投開票の名護市長選に向け、宮城康博市議が三日、名護市内で記者会見して正式に出馬を表明。当選した場合は米軍普天間飛行場の同市辺野古沿岸域への受け入れを撤回する方針を明らかにした。一九九九年に移設受け入れを表明した現職の岸本建男市長はすでに立候補を表明しており、同選挙は「普天間移設」を最大の争点に、事実上の一騎打ちとなる。
宮城氏は普天間飛行場移設について、「名護市では九七年の市民投票で反対の意思が過半数を占めた事実があり、このまま事態を放置することは民主主義の根幹にかかわる重大な禍根を残す」と指摘。立候補要請について、「ちゅうちょすることは許されないと考え、即断した」と述べた。
さらに、受け入れ撤回については「一方的にでなく、経緯を含めて近隣町村とも話し合いが必要と認識している」と補足した。
現在、実施されている北部振興策については「本来、行うべき公共事業の前倒し」と話し、公共事業そのものの必要性は認めた上で、「迷惑施設受け入れに伴う振興策で自立経済が生まれるわけはなく、依存した経済を生み出すだけ。基地建設にリンクしない北部振興策を」と訴えた。
支持母体は検討中で、今後早い段階で決定する意向。出馬表明には同氏を擁立した「未来を開く会」代表の玉城義和県議や各団体代表者ら四十人余が出席したほか、関係者約三十人が会見を見守った。
宮城やすひろさんを応援するページ
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2002年1月3日
名護市長選挙立候補にあたって
昨年大晦日の日に「名護市の未来をひらく会」から、本年2月3日に投票が行われる名護市長選挙への立候補要請をいただきました。
私は、地方自治体の政治・行政運営は、地方自治の本旨に則り市民を主人公にした不偏不党であるべきだと考えています。立候補要請をいただいた政党や各種団体、市民グループの方々と多くの考え方や信条は一致するものでありますが、市政運営にあたっては徹頭徹尾市民の立場でありたい旨をお話しさせていただきました。
そのような私の考え方については、基本的なところでご理解をいただいたものと判断しております。
名護市が直面している様々な課題は、一刻の猶予もならない重大な問題群であり、特に普天間代替施設の建設問題については県知事からの協力要請を受けた現市長の意志決定と、政府との協議会の場で市長により建設位置に関する要望が出され、大きく事態が進行している最中であります。
同基地建設問題については、県民市民の意見が二分されており、名護市においては97年に市民投票を行ない反対の市民意志が過半数を占めている事実もあり、このまま事態を放置することは我が国の民主主義の根幹にも関わる重大な禍根を残し、名護市が陥る混乱は想像を絶するものがあります。
立候補要請に対して、私が躊躇する事は許されるものではないと即断致しました。
私は、真実を見つめる冷静なまなざしを大切に、曇りのない言葉で、基地建設の賛成反対両派の方々を色分けする事無く多くの人と話し合いたいと思います。そうすることで問題点の所在を確認し、解決するための相互の努力を信頼し、共によりよき未来を創造していけると考えるからです。
名護市長選挙に立候補するにあたって、「基地建設問題」「名護市の振興」「行政運営」等についての私の考え方を説明させていただきますが、私は決して、自身の政策や信念を誇り高き崇高なものとして押し付ける市長になるのではなく、人と人との間に生起する問題を共に見つめ考え、解決していく人間の政治・行政を行いたいと決意を新たにしています。
宮城康博
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名護市長選挙立候補表明にあたって、現段階での宮城康博の考え方を説明させていただきます。より具体的な政策・公約等については後日あらためて発表させていただきます。
- 基地建設問題について
名護市民は4年前に市民投票で基地建設の問題に結論を出しています。名護市長は「凍結」を言い、新しい県知事は「見直し」を言い、SACO報告に明記された海上基地は潰えました。しかし、あれから4年を経て、騒音問題も自然環境破壊も著しい拡大した施設として基本計画が策定されようとしています。主権者である市民の意志は蔑ろにされていると言っても過言ではありません。
私は、現在進められている代替施設協議会の議論は中止すべきであると考えます。
危険な普天間飛行場返還のためとはいえ、過重に米軍基地負担を抱える県内に新たな基地建設を行なう事は、決して沖縄の利益にはならないし、このような歪な負担構造はひいては我が国の安全保障体勢の安定的履行のためにもならないと私は考えます。
沖縄の未来の世代から預かっている世界に誇れる自然環境を破壊してまで、沖縄に新たに米軍基地を建設し押しつけ続けるのは常軌を逸しており、沖縄県民としてこれに協力・加担する事はできません。
私は考え方を異にしますが、県知事が安全保障の本性上、無理であると思われる15年期限を主張しているのも、普天間の危険性を除去したいがための県民の立場からのギリギリの妥協の発言とも言えます。それに呼応して日本政府が、米国政府からの拒否回答が明確になっているにも関わらず、実現可能かのように問題を先送りにするのは、国家安全保障に対する責任ある態度だとは言えません。日米両政府の冷静で真摯な対応を心より願うものであります。
- 名護市の振興について
基地建設とリンクするかのように施される振興策は、真に名護市、ひいては北部・沖縄振興に寄与するものにはなりえないと私は考えます。迷惑施設を受け入れることで施される振興策等で「自立」経済が生まれるわけはなく、それは迷惑施設に「依存」した経済を生み出すだけではないでしょうか。どのような理由をつけようと、それは結果的に、地域の人々の「生きる力」を疎外してしまいます。
名護市に必要な振興策は、市民の「生きる力」が能動的に発揮できる名護市創造以外にはありません。
「生きる力」が発揮できる雇用の場の創出は緊要な課題です。
福祉や教育の充実、自然環境の保全と賢明な利用、IT利用による商業・観光の活性化、商品化及び流通・販売戦略を充実した農業振興など、様々な行政課題が山積していますが、それらを行なうにあたって新たな雇用の場の創出が図れるよう知恵を絞って全力で行政運営にあたっていきます。
本来なら、市民投票後の98年からの4年間は、基地建設問題でこれ以上市民を分断することなく、起業者である政府が全体重で理解と同意を得るため行為した状況で、毅然と判断を示した名護市民の「誇り」を守り、市民融和のもとで、真に誇りある生きる力が発揮できる名護市づくりをすすめていくべきでした。
この4年間をしっかりと検証・反省し、今後は、基地建設にリンクしない北部振興策を北部の未来を創造するために北部12市町村で知恵を発揮し活かしていくべきだと思慮します。
- 行政運営について
この4年間、私は市議会議員として名護市政をチェックしてきました。そうして得た問題意識を基に、行政運営の変革を行なって行きたいと考えています。
基地問題に関しては、問題の本質をうやむやにして先送りして、政府の意向に沿うよう進めていると批判されても仕方がない手法が目につきます。行政と議会という立場の違いを考慮しても、認めるわけにはいかない重要な問題がそこにはあります。
振興策等については、本来なら国の機関や県が行なうべき事業を、名護市が事業主体となって行なっている事業も多くあり、今後の維持管理等に関わる市民負担が増大する危険があります。第三セクターのずさんな経営を放置してきた責任と、経営主体である行政の雇用責任放棄は犯罪的でさえあります。
福祉・教育については、普通建設事業が突出する土建市政のような構造の中で、相対的におろそかにされ続けています。
マルチメディア館のようなインキュベータ機能を有する施策も、縦割り行政では政策コンセプトが発揮されないという問題を認識できず活かしきれていません。
行政運営全般に言える事は、現市長の行政経験の長さが災いし、職員の持っている力を発揮させきれていないということです。基地問題で矛盾を抱え、公共事業の前倒しでしかない振興策に翻弄され、名護市政は混乱しています。それらの歪みを放置していると、市民のための自治行政である事を瓦解させ、特定の利益団体や権力に奉仕する権力行政になってしまいます。もうすでにそうであるという市民の批判も大きなものがあります。この危険性を看過することはできません。
具体的な私の施策は、できるだけ速やかに整理し明らかにしたいと思いますが、この市政の陥っている現状は、市民との対話の不在が大きな原因になっています。行政と市民とのパイプが詰まり、それによって行政の側は問題を抽出することができず、従って解決策を講じる事もできない悪循環に陥っているわけです。
地方自治は、住民自治と団体自治に大別されると言われています。名護市では、住民自治として、市民投票では反対の意志が過半数を上回り決せられました。団体自治としては、その住民自治の結果とは反する意志決定を行なう市長が誕生しています。その矛盾が、名護市の自治を混乱させ機能不全に陥らせています。
私はその矛盾を解決し、本来の自治を回復することが、我が名護市には何よりも必要なことだと考えています。基地問題や経済問題、様々な重要で困難な問題が山積していますが、市民を信頼し、市民と対話し、市民と共に解決策を探し講じていける、開かれた市政を創り出していきたいと思います。
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沖縄タイムス2001年10月4日
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地元からの情報は、国頭環境青年団
国頭村に工事禁止命令/那覇地裁が仮処分決定
国頭村が計画している一般廃棄物最終処分場の建設問題で、地元の同意を得ずに建設を強行するのは地元区が有する入会権や住民の環境権を侵害するとして、辺戸区(石原昌一区長)と区民百十五人が村に建設禁止を求めた仮処分で、那覇地裁(綿引穣裁判長)は三日、同区の山林利用権を認め、村に建設禁止を命じる決定をした。村は先月、裁判所の判断を待たずに工事着工を強行したが、この決定で中断に追い込まれる。区側が上原康作村長ら幹部を相手に起こした損害賠償訴訟の審理にも、影響を与えそうだ。村側は決定を不服として、近日中に再審理を求める意向を示した。
村、不服申し立てへ
仮処分の審尋では、建設予定地における辺戸区の入会権の有無が最大の焦点になった。決定命令書によると、同区が現在も山林を入会集団として管理していることや、村有林の収益の半分が行政区育成交付金として区に交付されていることなどから「辺戸区は字名義だけでなく、村名義の林野についても、入会権ないし旧慣使用権を有している」と認定した。
さらに、一九八五年の入会林野法によって「区の旧慣使用権を消滅させた」とする村の主張に対し「建設予定地は消滅手続きが取られておらず、区の権利は存続している」と指摘した。
また、村側が処分場の「公共性の高さ」を理由に訴えていた「建設の正当性」の主張についても「必要な施設なら、土地収用法を発動すれば足りることだ」と退け、法に基づいた適正手続きを行うべきだとした。
区側弁護団の小田耕平弁護士は「村の強制工事着工は、区や区民の権利を侵害する暴挙であったことが決定で明らかになった」と強調。再審理の申し立てに対しても「決定を謙虚に受け止め、速やかに建設計画の抜本的見直しをすべきだ」と村の姿勢を批判した。
村側弁護団の宮里啓和弁護士は「現在、国頭村有林には入会権が残っておらず、決定の内容は不服」とコメント。「再審理や損害賠償訴訟でも、入会権の存否が焦点となる。消滅したとの立証を尽くしたい」と話した。
処分場の設置を許可した県の永山政邦文化環境部長は「詳細を聞いていない」と断った上で、「村の対応を見て、県としての対応を決めたい。予算執行上の問題もあり、村と話し合う必要がある」と述べた。
入会権(いりあいけん) 一定の山林原野(入会地)で、一定の村落民が共同で伐採や採草などをする慣習によって認められた前近代的な権利。利用方法などの取り決めは、その村落で慣習的に定められている。入会集団全員の合意がなければ消滅させることもできない。
場所の変更は考えていない
上原康作国頭村長の話 村の主張が通らなかったことは大変残念だ。村民の生活、福祉のために必要な施設であり、村民の期待も大きい。土地収用法を含め、本訴でも徹底的に争っていく。あらゆる手段を講じ実現できるようにしたい。辺戸で駄目なら、どこも受け入れるところはなく、場所の変更は考えていない。
国頭村最終処分場建設の経緯 |
3月27日 | 国頭村の一般廃棄物最終処分場計画に辺戸区民が村役場で反対表明。双方の対立表面化 |
3月末 | 安田区の処分場期限切れ |
4月 1日 | 村内の不燃ごみ回収中断 |
28日 | 安田区が不燃ごみ受け入れ延長 |
5月 1日 | 不燃ごみ回収再開 |
6月11日 | 辺戸区が地裁に建設禁止仮処分申請 |
22日 | 地裁で第1回審尋 |
26日 | 村議会、処分場建設工事落札承認 |
27日 | 辺戸区民が予定地にテント建設。翌日から監視活動 |
7月 9日 | 村長ら予定地で理解求める |
27日 | 地裁で第2回審尋 |
8月 1日 | 村が区に着工通知 |
5日 | 辺戸区が抗議集会 |
7日 | 業者や村が予定地で区民と対峙(たいじ)。以降、断続的ににらみ合い |
18日 | 推進派が建設推進協議会設立 |
9月 2日 | 村と辺戸区が公民館で直接話し合うが物別れ |
18日 | 村議会が早期着工決議 |
20日 | 村と業者が強制着工 |
22日 | 重機を入れ混乱。工事中断 |
25日 | 辺戸区、村を相手取り損害賠償求め地裁に提訴。第3回審尋 |
10月2日 | 推進協が早期建設求め村に署名提出 |
3日 | 那覇地裁が建設禁止仮処分 |
「勝った」区民ら涙/辺戸区処分場問題
「勝ったー」―。反対を貫いて建設予定地の国頭村辺戸区にテントを立て、監視活動を続けて三カ月余り。建設禁止決定の知らせに、お年寄りを中心とした区民はうれし泣きし、抱き合って喜び、万歳三唱した。一方、辺戸区の反対を押し切り、強制着工した村は幹部が夕方から村役場で協議し、あくまでも辺戸区への建設を推進する方針を確認した。
この日もいつも通り、建設予定地の二つのテントには、約三十人の区民らが詰めていた。午後四時四十五分ごろ、第一報が予定地入り口の第一テントに入ると、区民らは歓声やカチャーシーで歓喜。早速、第二テントに詰めていた区民も合流、集落からも知らせを聞いた区民が集まり、うれし泣きの輪ができた。
石原昌一区長は「三カ月余も皆さんが生活を投げ捨て、阻止し続けたおかげ。苦痛を強いられながらの勝利。これで皆さんの健康も回復するでしょう」とお年寄りたちをねぎらった。
着工の日に気分が悪くなり、現場で倒れた上江洲和子さん(61)は、涙をぬぐいながら「言葉にならない喜び。木は切られてしまったが、今度は植林し、山を守っていきたい」と話した。
お年寄りの先頭に立ってきた玉城増夫さん(82)は「夢みたいな気持ち。長い闘いだった。今度は山を元通りにさせる」と言葉をかみしめた。連日、早朝からテントで監視に当たった名城スエさん(74)は「闘いで疲れたが、これで疲れも吹き飛んだよ」と目を真っ赤にさせていた。
夜には集落内で大勢の区民が繰り出し、祝杯を挙げた。村の再度の強行姿勢の知らせを受けた石原区長は「弁護士と相談し対応するが、区民の同意なしには工事はできない。村が計画を白紙撤回するまで頑張る」と強調した。
推進派は善後策協議
建設禁止の決定を受け三日夕から、村では上原康作村長や幹部、推進協議会会長を務める崎浜秀安村議会議長らが次々と集まった。一様に沈んだ表情で、弁護士と連絡を取り合うなど、善後策を話し合った。
「村の主張が認められると思っていた。落胆している」と話した上原村長。残っていたマスコミ陣を前に会見を開き、「村民の福祉や生活を支える施設」「現在使用している安田区処分場は不法投棄まがい」とあらためて説明した。
土地収用法の適用も含め、あくまで現在の辺戸区の予定地に建設する決意を強く示し、「次の段階で争っていく」とした。
解説・権力発動なら対立泥沼化
国頭村の一般廃棄物処分場の建設問題で、那覇地裁は「辺戸区には入会権ないし旧慣使用権を有する」と認定、同区が申し立てた工事禁止を全面的に認める仮処分決定を下した。「区には入会権はない」とする村の主張は、退けられた結果となった。
審尋は、辺戸区の入会権の有無が最大の争点だった。村側は、一九八五年の入会林野法によって「区の旧慣使用権を消滅させた」と主張。しかし、この計画の対象地が示された資料には、建設予定地の地番が記載されていないなど、主張を裏付ける証拠に乏しかった感は否めない。
村側は九月末、裁判所の決定を待たずに工事着工を強行。阻止しようとする区側に負傷者が出た。「公共性の高い施設」を理由に「建設の正当性」を主張したが、裁判所は「法律による行政を行うことが地方公共団体の基本原則」と指摘。法に基づく適正手続きを行うよう、村側に注意を促している。
村側は決定を不服として再審理を求める構えで、上原康作村長は土地収用法の発動も示唆した。区側は村長相手に損害賠償を求める訴訟を起こすなど、対立は今後も続く。
来年度以降、村内の家庭ごみの行く先は不透明なままとなる。ごみ処分場などの迷惑施設の建設には、地元の合意形成が行政側に特に求められるが、審尋で区側は一貫してこの作業の不備を指摘していた。
建設場所や施設の工法を含め、合意形成を丁寧にやり直すことも村側の選択肢の一つだ。土地収用法のような権力手段を発動しても、成田空港の例のように対立が泥沼化するのは必至だ。
辺戸区民、監視活動を継続/国頭村際処分場問題
辺戸区が申し立てた建設禁止の仮処分が那覇地裁に認められた国頭村の一般廃棄物最終処分場問題で四日、勝利に沸いた辺戸区民は、依然として建設を進める構えの村側を警戒し、この日も建設予定地のテントで監視活動を継続した。一方、村は朝から課長会議を開き、土地収用法の適用を含めて事業を進める方針を確認。同日中に上原康作村長が弁護士と会い、調整する。
辺戸区では、前日の夜遅くまで祝賀ムードに沸いた。この日の朝はテントにいつもより二時間近く遅い午前七時ごろから、お年寄りを中心とした区民ら約二十人が「反対の姿勢を見せるため」に集まった。
互いに喜び、労をねぎらっていたが、村が「位置の変更などは考えていない」などとしていることに、「村長の考えが変わるまで続ける」「闘いは始まった」と口々に闘争継続を表明した。
石原昌一区長は「村がどう出てきても、対応は弁護士の方で考えている。区民の方々は今までのことがあるので、気が治まらないということで来ているが気は楽になった」と話した。
決定の内容や今後の方針について話し合った上原村長は、現在、使用中の安田区処分場が来年三月末で使用期限が切れることについて「約束は守る」と明言。その後の処分場所については「一時的に処理できる場所があるのかどうか。それにしても現在のような不法投棄の状態を続けるのは心が重い」とし、「村としては補助金の関係やあの(辺戸区の)場所ですでに予算を消化していることもあり、変更は考えられない」と述べた。
沖縄タイムス2001年9月20日
参考:国頭環境青年団
最終処分場を強制着工/国頭村辺戸
区民が阻止行動4人けがか
国頭村辺戸区に建設が予定されている村の一般廃棄物最終処分場問題で、同村は二十日午前、工事の強制着工に踏み切った。反対の区民らが阻止行動を展開したが、その際に区民五人がけがをした。
建設予定地では午前五時すぎから約六十人の区民が予定地の外周にロープを張り、阻止を試みた。しかし、村職員や建設業者、推進協議会のメンバーらは約百二十人が集合。反対する区民の制止を振り切り、予定地の伐採作業に入った。
辺戸区の石原昌一区長は、区民のけがで過失致傷で刑事告訴する考えを示した。
同問題は、辺戸区が建設差し止めを求めて那覇地裁に仮処分を申し立てて係争中。二十五日に三回目の審尋が予定されている。区民側は六月二十八日から予定地にテントを張り、監視活動を続けていた。
静かな山に響く怒声/村と区が正面衝突
静かな山にはチェーンソーの騒音と、区民の怒声が響き渡った。ついにけが人まで出した国頭村辺戸区の一般廃棄物最終処分場問題。二十日午前の強制着工の現場は執行する村側と阻止を図る区民側との正面衝突で、大混乱に陥った。
区民側が現場に集まったのは午前五時すぎ。建設予定地への立ち入りを阻止しようと、ロープを張って待ち構えた。
午前七時半に職員らと一緒に現場に到着した上原康作村長は区民の反対の声に、「話し合いに来たのではない。仕事しに来たんだ」と宣言。「皆さん、配置についてください」と呼び掛けると、業者が一斉に区民を押しのけて山に入った。
「切ってはならんどー」と叫び、木にしがみつく区民。役場職員や業者はスクラムを組み、木にしがみつく区民を引きはがし、次々と伐採していった。
六十歳の女性は「チェーンソーの音がするたびに、胸が張り裂けそう」と号泣。「村のやり方は絶対許せない」と声を上げた。男性(75)も「多数による暴力としか言いようがない。辺戸の人を人間と思っていない」と憤った。
着工を阻止しようと立ちはだかった辺戸区の佐久真豊市さん(74)=農業=は「チェーンソーで業者が木を切り倒そうとするので、区民が止めようとしたが、区民より数が多く、強行に入ってきた。押し倒されたり、転んだりして少なくとも四、五人がけがをした」と説明。自身も腰を強く打った―と話している。
区民の中からは二十日昼の段階で五人のけが人が出た。作業員が隊列をつくって区民の動きを止める中、間をくぐり抜けようとして「腕で首をひねられた」とする女性(65)のほか、「役場職員に押されて転び、目に異物が入った」「現場に入ろうとして業者に邪魔され転び、足に打撲を負った」と訴える人などで、同日午後にも診断書を取り名護署に告訴するという。
村民のため建設進める
上原康作村長の話 辺戸区の皆さんも含めて村民のために建設を進めないといけない。辺戸区民は監視活動を続けており、その抵抗があったのはやむを得ない。出来上がってしまえば喜ばれる施設。今日の着工により一歩も二歩も前進した。裁判は裁判として争っていく。
司法判断を無視
区民側代理人の仲宗根忠真弁護士は、専門家が区の入会権を認めた資料を上原村長に手渡そうとしたが拒否された。「建設を強行した村の態度は裁判所の判断を無視したもので、法治国家においては許されない行為」と厳しく批判。「区の管理権の侵害で器物損壊に当たる。法的な手段をとる」と話した。
詳しい情報は「琉球・国頭・環境青年団」
沖縄タイムス2001年8月7日
「入れて」「帰れ」/建築業者と村が予定地入り/辺戸区民とにらみ合い/国頭村最終処理場
【国頭】村の一般廃棄物最終処分場建設で予定地の辺戸区と村が対立している問題で七日午前、着工に踏み切ろうと業者三十人余と村の担当者が建設予定地を訪れた。テントを張り監視活動を続ける区民と激しく対峙(たいじ)。「入らせてほしい」「村長を連れてこい。絶対に入れない」など、早期の建設を目指す村と阻止の構えの区民のにらみ合いが続いた。
午前九時すぎ、約十人の区民が監視をする中、請負業者が訪れ、「わたしたちは役場の指示で動いている。建設予定地に入らせてください」と述べた。区民側は「区民の納得なしにやるのか。何も聞いていない。ここは水源地でもあった。村長と話すから連れてきなさい」と激しい口調で返した。他の区民も続々駆けつけ約三十人ほどが集まった。
村の担当者が「このような状態が三年も続いているが受け入れてくれない」と述べると区民から「なぜ受け入れるところに持っていかないのか」と応酬。
石原昌一区長が「裁判所の結果も出ていない。区民は体を張ってでも阻止する意志はある」と説明。村側は「係争中でも公共的施設の計画を止める法律はない。皆さんのためでもある」と返答すると、区民からは一斉に「帰れ」の抗議の声が上がり、騒然とした雰囲気になった。
同処分場は村の建設計画に区民側が強く反対。区民ら百十五人が六月に那覇地裁に建設禁止仮処分申請を申し立てており、係争中。村は来年三月に完工を目指し、今月三日までの明け渡しを通知。これに対し区民は、五日に緊急抗議集会を開き、着工阻止を確認している。
沖縄タイムス
(2001/06/27)
反対派、住民不在を指摘/塩屋湾外海埋め立て
大宜味村が計画する塩屋湾外海の埋め立て事業で、埋め立て費四十五億円を国が負担する方向で検討されていることが明らかになった。埋め立ては国が建設中の「大保ダム」工事で排出される土砂を利用する予定。村は国が支払う「捨て土料」を埋め立て費に充てる意向で、国側と具体的な協議に入った。一方、村内で賛否が割れ、県への免許申請もまだ行われていない村の単独事業について、現時点で国が当事者としてかかわることに、疑問の声も上がっている。(北部支社・嘉数浩二)
同事業は塩屋漁港付近から安根地先にかけてのリーフを中心に三九・七ヘクタールを埋め立て、公共施設や産業用地、宅地を整備する計画。大保ダムの建設と表裏一体の構想として浮上した。
埋め立て前提
「国、県の水需要を満たすというダム事業を抱えているので、埋め立て許可は前提として話を進めている」。照屋林三村長は二十二日の村議会で、費用面は国、環境や技術面は県と「具体的な詰めの作業を行っている」と、計画が“既定路線”であることを強調した。
国側は今年三月、大保ダムの本体工事に際し、村が求めた「埋め立てを実施すること」などの条件への回答書の中で「埋め立ては村が事業主体で免許を取得しなければならない。可能な範囲で協力する」と述べるにとどまっていた。
だが村がダム工事に合意したことを受け、「捨て土料」の名目で、埋め立て費の負担について協議を始めた。
北部ダム事務所は二十二日、取材に対し「ダム工事から出る残土の捨て場として、埋め立て地を利用させてもらう方向で検討している」と回答。
それ以外の土砂の処分方法については「検討していない」とし、海を埋め立てることを前提に、ダム工事を進める姿勢を見せている。
住民に不信感
村議会で多数を占める推進派議員の質問を受け、村当局は「早期の実現」を目指す姿勢をアピール。
本年度中に免許を取得し、来年六月にも工事発注にこぎつけたい考えを示した。
一方で、住民からは行政内の調整だけで構想が進展することに懸念を示す声も上がっている。
慎重な議論を求める住民グループ「大宜味を愛(かな)さする会」の市田豊子さんは「反対の声もある計画に、現時点で国がお墨付きを与えること自体が問題」と指摘。「土砂の処分に困った国と、公共工事をしたい村の利害が一致したという構図。住民不在で話が進んでいる」と不信感をあらわにした。
予定地付近で漁業を営み、計画に反対する名嘉供正さん(54)は「行政の都合で海をつぶそうとしているのではないか。納得できない」と話している。
「北限のジュゴンを見守る会」、名護新基地建設案の即時撤回を政府に要請
発信者=北限のジュゴンを見守る会(代表・鈴木雅子)
発信時=2001年6月23日
本年6月8日、日本政府は、第7回代替施設協議会で、稲嶺沖縄県知事、岸本名護市長ら沖縄側に、3工法8案を示し、それに基づいて地元で調整するよう求めました。
同案に対し、名護現地をはじめ沖縄では、強い抗議の声があがっています。提示された3工法8案は、どれを採用しても、新基地が押しつけられる地域の住民を分断し、土木建設関連業者間の抗争を激化させ、しかも豊かな自然を大規模に破壊するからです。
稲嶺知事は先の訪米で、新基地の15年使用期限を明確にするよう、米国政府に迫りましたが、冷酷な拒絶しか返ってきませんでした。岸本市長は、15年使用期限問題などで何の進展もないのに、基地建設案だけが協議の対象として押しつけられることに強い不満を表明しています。
日本政府は沖縄側の意見を聞くフリをするだけで、やっかいな地元での調整を、沖縄県と名護市に押しつけています。そして米国政府は、とにかく代替基地を確保できればいいという姿勢で、沖縄の人びとの思いを足蹴にしています。
関東を中心に活動する研究者・市民の自然保護団体「北限のジュゴンを見守る会」は、ジュゴンが生きられる環境を保全するために必要なことは、3工法8案やその代替案の検討ではなく、新基地建設案そのものの撤回であると考え、6月22日、全閣僚に以下の要請書を送りました。当会は近く、衆参両院の全議員にこの要請書を届け、協力を求めます。
米海兵隊・普天間基地の代替基地建設は、とうとう建設案が提示されるところまで来ました。全国のみなさんが、それぞれの立場で、名護新基地建設案の全面撤回と基地建設計画の中止を、日本政府に強く求める声をあげて下さるようお願いします。
以下に、当会の要請書を掲載します。
要請書 |
私たちは、「北限のジュゴンを見守る会」という自然保護団体です。本会の目的は、沖縄に生息するジュゴンが、今後も生き続け、どんどん増えて、群れをなして泳ぐことができる自然環境を保全することにあります。それゆえ私たちは、きわめて貴重で、しかも絶滅の恐れがある沖縄のジュゴンについての知識を広めるため努力してきました。
さて、本年6月8日、首相官邸で開かれた第7回代替施設協議会で、政府は、名護市に予定されている米海兵隊・普天間基地の代替基地建設について、3工法8案を、沖縄県や名護市などに提示しました。その内容は、沖縄の地元紙で詳細に報道されましたが、報道に接した私たちは、息も止まるほど驚きました。提示されたどの案も、ジュゴンの生存の根を絶つものであったからです。
浅海性の草食獣である温和な性質のジュゴンは、とても音に敏感で、船のエンジン音にもおびえて潜水するほどです。ところが、政府が提示した8案は、工期が6年から18.5年とされています。杭式桟橋工法であれ、ポンツーン工法であれ、また埋め立て工法であれ、長期にわたって連日、基地建設工事が続けられれば、餌場のある生息域からジュゴンが追い出されるのは、火を見るよりも明らかです。
日本政府が当初提示した建設案は、滑走路1300メートルで、しかも撤去可能なヘリ専用基地というものでした。しかし今回提示された3工法8案は、いずれも滑走路が2600メートルと倍の規模になり、しかも撤去の可能性にまったく触れていません。それは、今回の建設案が、恒久基地の建設を前提としたものであることを示しています。
しかも2600メートルの滑走路には、米軍の戦闘機が発着できます。新基地は、ヘリ専用基地ではなくなったのです。沖縄県は軍民共用基地の建設を主張していますが、共用であれ、米軍専用であれ、ジェット機、戦闘機、ヘリなどの騒音が、ジュゴンを駆逐してしまうことは自明の理です。米空軍厚木基地が発する騒音が、基地周辺住民の生活と健康を脅かしている事実に思いを馳せれば、繊細で音に敏感なジュゴンが、どれほど脅威にさらされるか、誰にもわかることではないでしょうか。
帝京科学大学の粕谷俊雄教授は、本年6月16日付の『沖縄タイムス』で、政府提示の3工法8案は、「どれもジュゴンのえさ場・通路・休息場の一つ、ないし二つを破壊する。これはジュゴンの日周移動を妨げ、辺野古の生息場を放棄させ、生息好適地の縮小を招く。」と指摘し、「空港は沖縄ジュゴンに有害であり、その害は海草群落の温存や移植では代替できない。ジュゴンの保存を望むなら、空港の建設は避けるべきである。」とのべています。
また、沖縄のジュゴンは、数十頭と推定されていますが、その点について、名桜大学(名護市)の大西正幸教授は、こう指摘しています。「数十頭という数字は、わずかでも環境の負荷がかかれば絶滅するという数である。日本海洋ほ乳類学会では、沖縄のジュゴンを『近絶滅危ぐ種』という最も絶滅の可能性の高い種の中に分類している。まして何の積極的な保護策も講じられておらず、漁業や船舶のような人間活動による妨害、埋め立て、赤土流出などによる海草場の喪失・劣化が手放しになっている沖縄の今の状況では、年々減少し、近い将来姿を消すのは確実である。」(本年6月15日付『沖縄タイムス』)。
つまり沖縄のジュゴンは、今でさえ絶滅の危機にさらされているのであり、基地の建設と運用がもたらす騒音や、餌場・通路・休息場の破壊によって、致命的な打撃を受けることは必至です。
本年6月13日付の『沖縄タイムス』夕刊によれば、同日の衆院外務委員会で田中真紀子外相は「普天間飛行場代替施設の工法・規模・場所の特定前に、複数案の段階で環境影響評価(環境アセス)を実施することについて、『心得て進めたい』と理解を示した。」とのことですが、これまで日本政府は、代替基地建設の中止を一度も検討していません。
それどころか、稲嶺沖縄県知事や岸本名護市長らが求めている15年の使用期限についても、沖縄側の意向を米国政府に伝えるとのべただけで、態度をあいまいにし続けています。そして米国政府は、15年使用期限問題には見向きもしないという姿勢です。
ですから、田中外相が「心得て進めたい」とする環境アセスメントも、果たして基地建設そのものの是非を問う内容を持ち得るのでしょうか。これまで開発行為に際してなされてきたアセスメントが、〈調査の結果、環境への影響は最小限に食い止められる〉として環境破壊を容認してきた、あまたある前例が、ここでも繰り返されることを、非常に危惧しています。
私たちはこれまで、沖縄の自然が、どれほど破壊されてきたかを知っています。かつては「銭蔵(じんぐら、金庫)」あるいは「ウラムトウ(宝)の海」とさえ呼ばれた、魚の湧く海、金武(きん)湾が、三菱石油の原油備蓄基地(CTS)建設によって、どのように殺されていったか、その苦い経験から、多くを学んでいます。
日本政府が、ほんとうにジュゴンの保護を考えているなら、名護に新基地を押しつける計画自体を即時撤回すべきです。私たちがジュゴンの保護を訴えるのは、ジュゴンの貴重さを深く認識してのことですが、それだけではなく、ジュゴンが棲むことのできる海が、沖縄の人びとに豊かな環境を保証すると確信しているからです。
ジュゴンが生きられる海は、大いなる幸をもたらしてくれます。ジュゴンが棲めない海にすることは、人間の生活を破壊することでもあるのです。
小泉首相を初め、日本政府の全閣僚に、私たちは心から訴えます。ジュゴンを絶滅させることが明らかな代替基地建設計画を、今すぐ中止して下さい。良識ある決断によって、私たちと世界の人びとに安心を与えるよう、強く要請します。
2001年6月22日
北限のジュゴンを見守る会 代表 鈴木雅子
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沖縄タイムス
(2001年6月19日 朝刊)
IUCN海牛類議長・ヘレン・マーシュ教授に聞く
国際自然保護連合(IUCN)海牛類専門家グループ議長のヘレン・マーシュ豪・ジェームズクック大学教授が18日、普天間飛行場移設予定の名護市・辺野古沿岸で、ジュゴンの食糧となる藻場などの調査を初めて実施した。精力的に日程をこなし、30年の研究成果を基に、保護の必要性やその具体的な方法について地元にアドバイスを送った。
―初めて辺野古沿岸で潜った感想は。
「すごくきれいな海でたくさんの種の藻があった。個人的な意見を言えば、このように海岸に近い藻場が破壊されるとしたら残念だ」
―ジュゴンの生息する世界三十七カ国のうち、先進国は日本とオーストラリアだが、この両国の具体的な使命は。
「確かに先進国はこの二つの国だが、役割は違う。オーストラリアの場合、生息数が多い(八万五千頭ともいわれる)。国土が広い割に、人口が少ない。一方、日本の状況は漁業の網にかかったりで減少している。アジアなどの発展途上国と同様、人口密度が高い。日本で保護することができれば、多くの発展途上国への影響は大きい」
「沖縄が保護できればパラオやソロモン諸島、インドネシアなど南太平洋の島国にとってもいい例になる。この点は非常に重要だ」
―辺野古沿岸区域は、米軍普天間飛行場の移設予定地だが。
「現段階の情報では正確には判断できない。例えばどのくらいの頻度で基地が使われるのか、それに伴いどのくらいの人口が集まるのか。さまざまな工法と位置を検討する必要がある。経済的、社会的にどういう影響があるのか検討すべきだ」
「個人的には、基地を建設しない選択肢を含めて環境アセスを考えなくてはならないと思う。シドニー空港で新しい滑走路を埋め立てで造ったとき、藻場への影響があった。そのような事例も含める必要がある」
―沖縄のジュゴンは北限に生息し、個体数も少なく、孤立しているといわれるが、保護策として重要なことは。
「生息地の藻場の保護と漁業の網による死を防ぐこと。この二つはどちらも欠けてはならない」
―環境アセスの時期や内容については。
「時間的、空間的に環境アセスの範囲の設定が重要となる。時期によっても違いはある。オーストラリアで過去にその設定が狭かったため、ジュゴンに影響が出ると後で分かって問題となったことがある」
「基地の工法が決定していない今の段階でも、どのような影響を与えるのか、一般的なアセスを実施すべきだ。工法や位置が決まったあと、あらためて徹底したアセスを実施すればいい」(聞き手=北部支社・内間健)
代替施設協議会で国が提示した三工法八案
- 地元はリーフ内反対/普天間代替で国が説明会・沖縄タイムス(2001/06/13)
- 国が名護市議会、地元3区で説明会/普天間代替工法・琉球新報(2001/06/13)
沖縄タイムス
(2001年6月13日 朝刊)
地元はリーフ内反対/普天間代替で国が説明会
米軍普天間飛行場の移設問題で、政府は十二日午後、代替施設協議会で国が提示した三工法八案を地元の久辺地区住民や名護市議会に説明した。地元からは住民生活や自然環境に影響の大きいリーフ内への建設に反対する声が相次いだ。建設場所をめぐり、地元が公式の場で政府に明確な態度を示すのは初めてで、今後の場所選定に大きな影響を及ぼしそうだ。また、議会からは工法決定までの日程や十五年使用期限設定など、県や市が示した条件に対する国の手法に不満の声が根強く、国側は厳しい対応を迫られることになる。
説明会は名護市の要望を受けて開かれた。政府からは内閣府や防衛庁、防衛施設庁の担当者が出席し、今月八日の協議会で示された八案についてスライドを交えて説明した。県や市の担当者も同席した。
今回の八案がすべて二千六百メートル滑走路の規模になったことについて防衛施設庁の河尻融施設部長は「主として施設が軍民共用空港になったためであり、米軍機能を強化するものではない」と述べ、県の条件が根拠と説明した。
また、八案のうち五案が埋め立て工法で占められている点にも触れ、「あらかじめ国が埋め立てを重視していることはまったくない」と、現段階で各案は並列とした。
辺野古公民館であった、久辺地区行政委員らに対する説明会では、住民からリーフ内建設に厳しい意見が集中した。政府側は知事や市長の意見集約を総合的に勘案し決定するとの方針を示した。
名護市議らは、工法決定と十五年使用期限設定時期との整合性を指摘した。政府側は決定時期には具体的に触れず、十五年問題でも明確な回答を示し得ず、地元との隔たりが浮き彫りになった。
岸本建男市長は説明会の冒頭、「施設の規模、工法、建設場所は大変重要な課題だが、この三つが突出して論議されることがよいとは思っていない」と述べ、使用期限や使用協定との同時決着をあらためて強調した。
また、県には八案以外の複数工法混合による選択肢を模索する動きも出ている。これに対し政府側は「技術的に厳しい」との認識を示している。
「工法より条件示せ」/住民厳しい口調で訴え
普天間代替施設の工法や場所に関する具体案が、初めて地元に示された十二日の説明会。住民らは「リーフ内の建設は絶対反対」と強く反発。市議からは「工法や場所の選定より使用協定や十五年問題、振興策、環境への取り組みが先」との不満も。岸本建男名護市長の受け入れ表明から一年半。工法、規模、建設位置が次第に明らかになっていく中で、地元は揺れ続けている。
地元三区への説明会は非公開で約二時間。ほとんどが防衛施設庁からの説明に費やされ、淡々と進行。工法への質問はほとんど出なかった。
「子々孫々に引き継ぐリーフ内、リーフ上の建設は、とんでもない。リーフは自然の宝だ。人間がつくれるものでもないし、復元もできない」。三キロ沖合への建設を求める久辺地域振興促進協議会の安里治正会長は、居並ぶ政府、県の関係者にこう訴えた。
閉会後、辺野古区の大城康昌区長は「区内はリーフ内はだめということで一致している。決議案は変わらない」と厳しい口調。リーフ内の五案については困難との見方を示し「行政委員には反対に回るという人が多い」。
豊原区の宮城秀雄区長も「リーフ外は区の総意」ときっぱり。辺野古区の宮城利正行政委員長は沖合三キロを強く求めつつ「意見調整は難しい。まだまだこれから」と述べた。同区の行政委員の一人は「軍民共用は好ましくない」と不満。
説明会場には、代替施設の移設に反対する住民たちも、質問しないことを条件に同席。命を守る会の金城祐治代表は「十分な説明もないままに、国は既成事実だけをつくろうとしている。(移設は)とんでもない話だ」と憤る。
一方、三区に先立つ市議への説明会では、異論が相次いだ。「工法を決める前に十五年問題、使用協定の問題について政府の方向性を示すべき」「今の状況で、工法を決めるのは無理な話だ」
施設の規模が五年前の海上ヘリポート案より大きくなっていることに加え、伊江島へ向かう飛行ルートが想定されていないことへの不満、環境保護への取り組みをただす声も出た。
説明会後、島袋吉和議長は「八案が示され、地元の議論も進む」と期待しつつ「『条件』が進展しなければ市民は納得しない」と強調した。
防衛施設庁の河尻融施設部長は「誠実に説明ををさせていただいたつもり。議員の方々と多くの話し合いができ、実りある説明会だった」と評価した。
地元は国、県に不信感
米軍普天間飛行場代替施設の具体的な工法、規模が十二日、名護市に示されたが、地元ではむしろ国、県への警戒感と不信感が広がった。使用協定や環境保護対策の道筋が見えない中で、工法決定のスケジュールだけが進んでいる、と映るからだ。移設予定地に隣接する辺野古、豊原の二区からはリーフ外への要望が相次ぎ、工法選定にも影響を及ぼしかねない状況。一方で、工法決定に至る国と県のスタンスも微妙にずれている。
警戒感
十二日深夜、名護市辺野古区公民館。住民説明会に参加した久志、豊原、辺野古三区の行政委員からは三工法八案のうち、リーフ内五案に異論が相次いだ。
「工法については分からないが、生活環境、住民の安全を守るにはリーフ外にしてほしい」。工法への質問はほとんどなく、「建設場所」へのこだわりが根強いことを示した。
「工法以前に整理すべき問題があるはずだ。十五年、使用協定の方向性が示されないうちの工法決定は無理だ」。市議会では、移設容認の立場を取る与党会派の我喜屋宗弘市議が、厳しい口調でこう語った。
岸本建男市長が受け入れ条件に挙げた基地の使用協定締結について、政府側から明確な方向性が示されなかったことに不信感すらにじませた。
我喜屋市議は「米軍管理の施設に住民が意見を言い、反映させられる状況をつくりたいが、国から『基本的にそうしたい』という答えすらない状態だ」と話した。
温度差
政府は、三工法八案について「代替施設協議会で県や名護市など地元市町村を交え、地元の意見、要望を踏まえて検討した」(防衛庁幹部)との立場だ。
「代替施設の規模拡大は滑走路、民航ターミナルとも県の要望にこたえた部分。米軍の運用所用は最小限の規模で、機能強化ではない」。河尻融施設部長が、代替施設の規模拡大について繰り返し説明した背景にもそうした考えが垣間見える。
普天間飛行場の規模を縮小して名護市辺野古沿岸域へ移転する政府方針は、五年前の日米特別行動委員会(SACO)最終合意と変わらないが、県の要望で滑走路は二千メートルに伸び、民間部分の面積も増え規模が拡大した。それには県、名護市も共通理解があるというという認識だ。
しかし、地元説明会の中で、軍民共用空港を要望した経緯や今後の対応について積極的に説明する場面はなく、冒頭のあいさつもなかった。
「県はもっと名護市に足を運んで、積極的に対応してほしい。名護に任せきりでは意見集約はできない。軍民共用も地元ではまだ議論されてなく、県の意向は伝わっていない」。名護市議会の島袋吉和議長は、県の対応に不満を漏らした。
立場の違い
一方、県の親川盛一知事公室長は、議会や地元住民から移設の段取りだけが先走ることへの疑問が相次いでいることに「地域の意見は尊重されなければならない。その意味ではいい説明会だった」と評価。活発な意見交換が解決への糸口になるとの読みだ。
ただ、この日の説明会後、工法決定に至るまでの国と県の立場の違いが明確になった。「できるだけ早い時期」とする政府側に対し、親川知事公室長は「早いに越したことはないが、地元とも緊密に協議しないといけない」と、慎重な姿勢を崩さない。(政経部・石川達也、社会部・平良武)
琉球新報
(2001年6月13日 朝刊)
国が名護市議会、地元3区で説明会/普天間代替工法
普天間飛行場の名護市辺野古沿岸への移設に向け、政府がまとめた代替軍民共用空港の三工法八案の説明会(名護市主催)が12日午後、名護市議会(島袋吉和議長)と、辺野古、豊原、久志の地元三区の行政委員を対象にそれぞれ開かれた。
内閣府の武田宗高審議官(沖縄問題担当)は、工法の絞り込みについて「必ずしも一本に絞り込んで(政府に)報告されるとは考えていない」と述べ、次回の代替施設協議会で、県と市側から、八案中の複数が地元案として提起される可能性があることに初めて言及した。一案への集約の困難さを見据え、地元の合意形成に向けた柔軟対応の一環とみられる。
説明会終了後、県の親川盛一知事公室長は「一案、二案、三案になるのか分からない」と述べ、名護、東、宜野座の地元三市村との協議によってまとめる県案として、複数を提起することもあり得るとした。また、異なる工法を組み合わせる混成案が、地元案として浮上する可能性について、公室長は「どうなるか分からない」と含みを残した。
説明会では、政府の担当者がスライド映像を使い、埋め立て、くい式桟橋、ポンツーン(海上浮体)の三工法を建設場所によって分けた八工法を解説。日米特別行動委員会(SACO)合意事案の海上基地から軍民共用化により、約2倍に拡大した規模について理解を求めた。
市議会側からは活発な質疑があり、15年使用期限問題の設定や、基地使用協定締結のめどが立たない中では工法決定に応じない、との強硬な意見も出された。
「リーフ内」に反発/生活への悪影響を懸念
【名護】米軍普天間飛行場の移設問題で、政府は12日夜、移設先の名護市辺野古、豊原、久志の行政委員らに対し、代替施設の三工法八案について説明した。すでに近距離での基地建設に反対の意向を示している辺野古、豊原区を中心に、リーフ内での建設案への反発の声が上がった。
説明会には三区の区長、行政委員らが出席したほか、移設に反対する住民らも傍聴した。冒頭、岸本建男名護市長は「皆さんと一緒に議論し、合意をもって結論を出したい」と強調した。
質疑では「一番重要なのは生活への影響。位置によって住民の生命や環境に影響する」「安全対策のために地域から離れた場所に造ってほしい」と、近距離での建設に懸念を示す声が相次いだ。
会合後、大城康昌辺野古区長は「地元として受け入れられないものが多かった。リーフ内やリーフ上などの案は認められない」とし、「地元の頭越しにしないという市長を信じ、地元の意見を主張していくしかない」と、今後の姿勢を示した。
傍聴した辺野古活性化促進協議会の島袋勝雄会長は「案が合理的に示された。いろんな考えがあるが、自分たちは埋め立てを要望するだけ。希望はもてる」と話した。
一方、ヘリ基地反対協議会の仲村善幸事務局長は「行政委員に話しただけで、住民への説明とするのはとんでもない」と批判。工法については「非現実的なもの。むしろ地元は環境などへの懸念を深めたのでは」と指摘した。
刈羽村住民投票、プルサーマルを拒否
- 刈羽村長に対し、「住民投票の結果を尊重し、事前了解を撤回するよう」求める、メール・FAXキャンペーン(2001/05/29)
- 全国の皆様へ(勝利声明)・原発反対刈羽村を守る会(2001/05/27)
- 刈羽住民投票 都市住民も問われている・毎日新聞記事(2001/05/29)
「柏崎・巻原発に反対する在京者の会」からのメール転載
刈羽村長に対し、「住民投票の結果を尊重し、事前了解を撤回するよう」求める、メール・FAXキャンペーン
全国の皆様へ(勝利声明)
プルサーマルの是非を判断する刈羽村の住民投票は反対1925、保留131、賛成1533だった。
有権者は4090、投票数3605、投票率88.14%。反対は投票数に対して53%、有権者数に対して47%。保留を含む現状否定は投票数に対して、57%、有権者数に対して50%である。
原発計画発表以来、村民は初めて意思表明することができた。その結果はプルサーマルにNOである。
刈羽村の世帯数は1400余、東京電力とその関連企業関係者が380人、3.7世帯に一人が原発関係者という企業城下町である。東京電力の計画発表(69.9.18)から32年、運転開始から16年が経過し、世界最大の原発が建設された。その結果、全国で最も濃密に原発依存を強いられた地域となった。こうした地域で、住民投票が実施されるのは、原発史上最初のことであり、わが国の民主主義、市民自治にとって画期的なことである。困難な中で住民投票を決定した村長と議会に心より感謝したい。
刈羽村民は本日、プルサーマルに判断を示しました。刈羽村民から東京都民をはじめ、大都市圏で暮らす人たちに訴えたい。プルサーマルは刈羽の問題でもありますが電力を消費する都会の皆さんもまた真剣に考えなければならない問題です。
住民投票告示後の20日と22日には公開討論会が開催された。20日の住民討論会は2部構成の変則的なものだったが、22日は厳正な時間管理のもと実施され、争点が明確になった。こうした催しが実施できたことは有意義だった。
投票前の2〜3日間の明るくする会の運動は、プルサーマルの争点ぼかし運動に終始したことは残念である。
それにしても、国の対応は許せない。5月14日未明、平沼赳夫大臣名の脅しともとれるチラシが配布された。作成配布費用は332万円、世帯あたり2400円である。税金で事実無根の脅しをしたことは許せない。
地元関係国会議員5人の村民へのアピールは、経済産業省の作成文に署名しただけのもの。プルサーマル賛成の明るくする会で全戸に配布された。
東京電力に対して厳重に抗議する。品田村長は東京電力の介入に自重を求めていた。東電は「有権者村民が自発的に運動することは自由」(12/28)と、社員や下請関連企業を通じて村民に介入を続けた。東京電力の社員向け<刈羽村戸別訪問実施要領>(5/17)やチラシ配布マニュアルはその証拠である。東京電力の地域介入と支配の実態は、関連下請企業関係者や社員の行動が示している。それは人権無視である。
賛成派は「プルサーマルは国策。核燃料サイクル政策の一環がプルサーマル。プルサーマルを止めれば原発は止まり、雇用の場がなくなる」と村民を脅した。「国策は住民投票になじまない」と主張した。
刈羽村民は、枕元の東電柏崎刈羽原発3号機プルサーマル計画の是非に反対と判断しただけである。
中央集権の時代から、地方主権の21世紀となり、地方自治法も改正された。刈羽村民の判断に何人も介入することはできない。手続き的には、国や東京電力がプルサーマルを実施したいなら、刈羽村との調整が必要となる。しかし、社会的には「地元の了解を得て」と公約していたプルサーマルは不可能となったと考える。
国や電力会社は、破綻した核燃料サイクル政策を転換しなければならない。原子力政策の実態を隠すことなく公開しなければならない。
全国からの支援に感謝する。それぞれの思いを託して寄せられたハンカチは1万枚を超えた。資金カンパも多額に及んだ。プルサーマル賛成派から「外人部隊が村を混乱させている」と批判されたが、プルサーマルは柏崎刈羽だけの問題ではない。自らの問題として考え、馳せ参じた多くのみなさんと共同の事業として住民投票で反対多数を実現できたことを心より嬉しく思う。
刈羽村を守る会は、住民投票告示後行われた公開討論会の教訓を基に、賛成派と主張の対立点を認めながら、刈羽村を明るくするために、村内で議論を深めたい。一緒に住む村なのだから。
2001年5月27日 原発反対刈羽村を守る会
刈羽住民投票 都市住民も問われている
2001年05月29日(毎日新聞)
東京電力柏崎刈羽原子力発電所でのウランとプルトニウムとの混合酸化物(MOX)燃料を使用するプルサーマル計画を巡る、新潟県刈羽村の住民投票で反対が過半数を占めた。刈羽村民は国のエネルギー政策にノーを突き付けた。
地域住民の意思表示としての住民投票は、90年代後半から各地で行われている。国の政策が一地域の住民の意思に左右されることを問題視する主張もあるが、その政策で大きな影響を受けるのであれば、間接民主制を補完するものとして評価できる。
今回の刈羽村を含めて住民投票結果に法的拘束力はない。28日、記者会見した品田宏夫村長は、判断を先送りした。
国は住民投票の結果を重く受け止め、プルサーマル計画の凍結も視野に入れ、対応すべきだ。そのうえで、推進するとすれば、住民の合意を取り付けることのできる方策を講じなければならない。また、東電は7月に予定している同原発3号機へのMOX燃料装荷を延期すべきだ。
国や電力業界は自前のエネルギー資源の乏しい日本にとって、使用済み核燃料を再処理して取り出したプルトニウムを再利用する核燃料サイクル計画が不可欠と位置付けてきた。しかし、プルトニウムを燃料とする高速増殖炉計画のめどが立っていない。そうしたなか、プルサーマル計画は当初のつなぎから、主役になりつつある。
ただ、経済産業省は核燃料サイクル計画を断念していない。当然、プルサーマル計画の扱いは中途半端だ。これまで、国や電力業界は安全性もさることながら、なぜ、プルサーマルが不可欠なのか地元に十分説明してきたのだろうか。
プルサーマル計画は97年2月、国が新潟、福島、福井の3県知事に協力要請したところから始まっている。新潟県では99年4月1日までに、関係自治体である県、柏崎市、刈羽村が事前了解した。その間、刈羽村では反対派の運動も活発で、村議会には住民投票条例制定請求が提出された。事前了解が住民大多数の納得を得たものでなかったわけだ。
現在、国内では51基の原発が稼働している。新規計画もある。自然エネルギー導入を推進しても、当面、電力の約3分の1を原発に頼ることに変わりはない。「余剰プルトニウムを保有しない」という国際公約を達成するためには、何らかの形でプルトニウムを消費していかなければならない。新規計画はなく、高速増殖炉計画も断念した欧州でプルサーマルが行われているのも、この観点からだ。
プルサーマル計画を推進する以上、国や電力業界は安全性を含めて、原発立地地域住民が受け入れられるだけの説明をする必要があるだろう。
また、今回の住民投票は刈羽村だけの問題ではない。日本の電源立地の特徴は生産地(発電所)と消費地が分離していることだ。都市住民の膨大な電力消費が原発の増設を必要としたことを十分、認識しておくべきだ。
ジュゴン、「種の保存法」による「希少種」に指定
- ジュゴン希少種指定へ/環境省が保護区を検討・沖縄タイムス記事(2001/05/04)
- ジュゴンを希少種指定へ/環境省が保護区検討・琉球新報記事(2001/05/04)
沖縄タイムス
2001年5月4日
ジュゴン希少種指定へ/環境省が保護区を検討
沖縄本島周辺の海に生息し、北限の個体群として国際的にも貴重とされる国の天然記念物ジュゴンについて、環境省は三日までに種の保存法で国内希少種に指定し保護に乗り出す方針を固めた。開発行為などを規制する生息地保護区の指定も検討する。
沖縄のジュゴンは五十頭前後と推定され、昨年の防衛施設庁の調査で少なくとも五頭が確認された。米軍普天間飛行場の代替施設建設が予定される名護市辺野古の近海でも多数の目撃情報があるため、工事や施設の影響をどう評価するか論議を呼びそうだ。
ジュゴンは水産資源保護法などで捕獲が禁止されているが、えさのアマモが生える浅瀬の保全などの環境対策は手付かずのまま。漁網に絡まって死ぬ事故も後を絶たず、代替施設問題をきっかけに内外の自然保護団体から総合的な施策を求める声が高まっていた。
このため環境省は、代替施設の基本計画策定後に始まる環境影響評価(アセスメント)と並行して、沖縄本島全域を対象にジュゴンや藻場の総合調査を実施。そのデータを踏まえ、早ければ本年度内の希少種指定を目指すことにした。
浅瀬に流入する生活排水や埋め立て事業の環境影響についても調査し、本島東沿岸の広い海域を対象に保護区の指定を検討する。指定されると、工作物の設置や土地の形状変更などに許可や届け出が必要となる。
またジュゴンが刺し網などに絡まる事故を防ぐため、水産庁と連携して地元の漁業関係者らに協力を求めていく。
水産資源保護法で保護する水生動植物は、一九九二年の環境庁(当時)と水産庁の覚書で、種の保存法の対象外になっている。(共同)
外圧受け方針転換
環境省がジュゴンを国内希少種に指定し、保護に乗り出す方針を固めた。背景には国際的な保護団体などからの“圧力の高まり”があった、といえそうだ。「何のための環境省か。困難は承知の上だ」と同省幹部。県内保護団体なども評価した上で、普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古沿岸の保護区指定は「避けられない」と指摘。海だけでなく、やんばるの自然全体の保護区指定を求めていく考えだ。 生息状況の十分なデータがなく、希少種指定は難しい―。種の保存法による沖縄のジュゴン保護を求める声に対し政府は昨年まで、国会答弁などで時期尚早とする見解を繰り返してきた。環境省が一転して指定に乗り出した背景には、国際的な圧力の高まりがある。
国際自然保護連合(IUCN)は昨年十月、日本政府にジュゴンの保護措置を取るよう勧告。米国の自然保護団体や研究者らからも日米両政府に対策を求める声が上がっていた。
「ジュゴンを守れなかったら何のための環境省か。困難を承知で覚悟を決めた」。環境省幹部は方針転換の理由を説明する。
「困難」の一つは米軍普天間飛行場の代替施設だ。内閣府の斉藤敏夫参事官は「ジュゴンは(予定地の)名護市辺野古沿岸だけで確認されたわけではない」と“過剰反応”を警戒するが、予定地を生息地保護区に含めるかなど、微妙な調整が必要になりそうだ。
漁網によるジュゴンの事故死の問題も、刺し網を規制する場合の漁業補償など課題が多い。(共同)
世界に誇れる保護区設定を/市民団体
自然保護団体「ジュゴンネットワーク沖縄」の棚原盛秀世話人は「本島の東沿岸はジュゴンにとって良い条件が残っている貴重な場所。何年かかってもきちんとした形で保護区を指定するべきだ」と話している。
ジュゴン保護基金委員会の東恩納琢磨事務局長は「ジュゴンが回遊する東海岸の真ん中に当たる辺野古海域を保護区に指定しなければ、ジュゴンの回遊航路を妨げることになる」と指摘。
「ミニチュア的保護区では意味がない。ヤンバルクイナが生息する山も含んだ形で、やんばる全体を世界遺産に匹敵する保護区に指定すべきだ。世界に誇れる保護区をつくってほしい」と訴える。
ヘリ基地反対協の仲村善幸事務局長は「ヘリ基地建設断念の大きな一歩」と歓迎しつつも、「環境省は代替施設協議会に入っている。ジュゴン保護とヘリ基地建設は相反したもので、どんな対応をするか見極める必要がある」とした。
沖合三キロへの建設を容認している久辺地域振興促進協議会の比嘉勝正活動部長は「守るべきものは守らないといけない。いいことだ」と評価。「ジュゴンのためにも、リーフの外に建設してほしい」と、あらためて要望した。
琉球新報
2001年5月4日
ジュゴンを希少種指定へ/環境省が保護区検討
沖縄本島周辺の海に生息し、北限の個体群として国際的にも貴重とされる国の天然記念物ジュゴンについて、環境省は3日までに、種の保存法で国内希少種に指定して保護に乗り出す方針を固めた。開発行為などを規制する生息地保護区の指定も検討する。沖縄のジュゴンは50頭前後と推定され、昨年の防衛施設庁の調査で少なくとも五頭が確認された。米軍普天間飛行場の代替施設建設が予定される名護市辺野古の近海でも多数の目撃情報があるため、工事や施設の影響をどう評価するか論議を呼びそうだ。
ジュゴンは水産資源保護法などで捕獲が禁止されているが、えさのアマモが生える浅瀬の保全などの環境対策は手付かずのまま。漁網に絡まって死ぬ事故も後を絶たず、代替施設問題をきっかけに内外の自然保護団体から総合的な施策を求める声が高まっていた。
このため環境省は、代替施設の基本計画策定後に始まる環境影響評価(アセスメント)と並行して、沖縄本島全域を対象にジュゴンや藻場の総合調査を実施。そのデータを踏まえ、早ければ本年度内の希少種指定を目指すことにした。
浅瀬に流入する生活排水や埋め立て事業の環境影響についても調査し、本島東沿岸の広い海域を対象に保護区の指定を検討する。指定されると工作物の設置や土地の形状変更などに許可や届け出が必要となる。
またジュゴンが刺し網などに絡まる事故を防ぐため、水産庁と連携し地元漁業関係者らに協力を求めていく。
指定は歓迎/親川知事公室長
県の親川盛一知事公室長は3日、「保存法にジュゴンが指定されるのは大切なこと」と述べ、県としても環境省の取り組みに歓迎の意向を示した。
また、米軍普天間飛行場代替施設の建設が予定される名護市辺野古沖でもジュゴンの回遊が確認されたことに関連し、「辺野古沖だけに生息するわけではないが、そこの藻場も保全しながら(代替施設建設による)影響を極力抑え、それなりの環境をつくっていくことが大切だ」と語った。
外圧受け方針転換
生息状況の十分なデータがなく、希少種指定は難しい―。種の保存法による沖縄のジュゴン保護を求める声に対し政府は昨年まで、国会答弁などで時期尚早とする見解を繰り返してきた。環境省が一転して指定に乗り出した背景には、国際的な圧力の高まりがある。
国際自然保護連合(IUCN)は昨年10月、日本政府にジュゴンの保護措置を取るよう勧告。米国の自然保護団体や研究者らからも日米両政府に対策を求める声が上がっていた。
「ジュゴンを守れなかったら何のための環境省か。困難を承知で覚悟を決めた」。環境省幹部は方針転換の理由を説明する。
「困難」の一つは米軍普天間飛行場の代替施設だ。内閣府の斉藤敏夫参事官は「ジュゴンは(予定地の)名護市辺野古沿岸だけで確認されたわけではない」と“過剰反応”を警戒するが、予定地を生息地保護区に含めるかなど、微妙な調整が必要になりそうだ。
漁網によるジュゴンの事故死の問題も、刺し網を規制する場合の漁業補償など課題が多い。自然保護団体「ジュゴンネットワーク沖縄」の棚原盛秀世話人は「本島の東沿岸はジュゴンにとって良い条件が残っている貴重な場所。何年かかってもきちんとした形で保護区を指定するべきだ」と話している。
「生態調査も必要」/県内自然団体が訴え
環境省がジュゴン保護に乗り出し、生息地保護区指定を検討することが明らかになった3日、県内の自然保護団体は一定の評価をしながらも生態調査など保護へ向けた施策の必要性を強調。名護市辺野古の移設反対派は歓迎しながらも「条件づくりになりかねない」と懸念を表明。沖合三キロの埋め立てを要望している推進派は「影響はない」との反応を示した。
ジュゴン保護基金委員会の東恩納琢磨事務局長は「いいことだとは思う」としながらも、「その前に2―3年をかけた生態調査がなされていないことが問題。ただ保護区をつくっても意味はない」と指摘した。
東恩納事務局長は「少なくとも金武湾以北を保護区としなければいけないはずだ。(普天間飛行場代替施設の建設予定地の)名護市辺野古をはずして保護区はありえない」と話した。
ヘリ基地反対協の仲村善幸さんは「これを機に、基地建設を見直す方向になればいい。大きな一歩だ」と歓迎した。その一方で、「環境保護は代替協でもいわれている。基地は造る、しかしジュゴンの保護もきちんとやるという条件づくりにもなりかねない」との懸念も表した。
また、基地建設推進派で沖合三キロ案を要望している久辺地域振興促進協議会の安里治正会長は「政府のやることで何も言うことはない」としながらも、「ジュゴンは沖合を回遊しているもので、藻場はリーフ内にしかない。沖合は特に影響はないと思う」と述べ、「保護にやぶさかではない。藻場は大事にしなければならない。その意味でも三キロ案の方がいいのではないか」と話していた。
ジュゴン
最大三メートルを超す大型の水生ほ乳類。オーストラリア沿岸を中心に東アフリカから東南アジア、琉球諸島にかけて分布し、生息数は推定で約10万頭。おとなしい性格で海草(うみくさ)類を好んで食べる。繁殖年齢に達するまで10年以上かかり、3―7年に一頭しか出産しないとされるが、生態は不明な点が多い。沖縄では明治時代まで食用に捕獲していた記録がある。