琉球新報2000年10月15日
国防総省を提訴へ/日本環境法律家連盟
普天間飛行場代替基地の名護市辺野古沿岸域への建設が国指定天然記念物・ジュゴンの生息を危機に陥らせるとして、希少な動植物保護に向けた法的な課題を研究している日本環境法律家連盟の弁護士らが、ジュゴンを絶滅危ぐ種に指定している米国の種の保存法に基づき、米軍が使用する代替基地の建設を差し止める訴訟を米国の首都ワシントンで起こす方針を固めた。被告は米国防総省。日本政府が実施する辺野古沿岸域での生態調査などを見極めつつ、来年以降に提訴する。原告には、県内でジュゴン保護活動をしているメンバーや弁護士らも加わる見通しだ。同連盟事務局長の篭橋隆明弁護士は「国際自然保護連合(IUCN)の総会で沖縄のジュゴン保護勧告案が採択され、国際的な注目を集めている。その不当性を米国内の世論にも訴え、差し止めを実現したい」と話している。
普天間飛行場の代替軍民共用空港は日本政府が建設するが、米軍が必要とする機能や規模は、日米の実務者による普天間実施委員会(FIG)で協議される。米軍の要求に基づき基地機能が決まり、民間部分以外は米軍が管理権を行使することから、米国政府を当事者とみなし、米国内法で建設を差し止める狙いだ。
環境法律家連盟によると、米国の種の保存法では、国防・外交政策上の必要のある場合は、適用を除外する規定がある。しかし、その発動には多くの代償措置や厳密な費用便益の分析、複雑な手続きが必要で、実際に免除規定が発動されたことはない。日本人が原告となることの適格性では、ジュゴンの調査活動などに携わるなど、生息地と原告の現実的なかかわりがあれば、クリアできるとしている。
篭橋弁護士は「米国では、絶滅危ぐ種に影響を与える施設の建設の場合、最新の科学情報を用意した上で関係省庁や機関の十分な協議を義務付ける厳密なルールがある。辺野古沿岸のジュゴンの生態は日本政府の調査もこれからで未解明だ。協議の段階にも至っていない」と指摘している。
日本環境法律家連盟は2000年度総会で、沖縄のジュゴン保護活動を展開することを決め、米本国での提訴の準備を進めている。
同連盟は「沖縄のジュゴンは本島東海岸の辺野古海域に数十頭のみの個体群を残すのみ。積極的な保護策を打たなければ絶滅する」と分析。辺野古沿岸のリーフ内の辺野古崎の南側沿岸にジュゴンがえさとしているアマモの藻場が形成されていることを指摘し、「軍民共用空港はジュゴンの生息区域を狭める結果となり、著しい悪影響が懸念される」としている。