満月・御万人(うまんちゅ)・まつり

1999/12/23 沖縄県名護市 東海岸 瀬嵩(せだけ)の浜





 午後6時すぎ、すべての照明とPAが止められ、ユタのおばあさんが浜辺に腰を下ろし「御願(ウガン)」がはじまる。やがてカヌチャ・ベイ・リゾートのそのさきの海から、うそみたいに大きな満月が昇った。
 この月は、133年に一度、最も地球に近い最も大きな月なんだそうだ。1900年代最後の満月、正確には十六夜(いざよい)なんだが、にしてクリスマスイブの前日、おっと、テンノー誕生日でもあったな、そんな佳き日の早朝に名護市議会はヘリ基地の受入れを決議したのだが、午後からここ瀬嵩、一日に3本しかバスがやってこないこの浜辺に数百人が集まって祭りがはじまった。
 シアトル、ソウル、北海道、神戸・・・世界8個所だったかいくつだったか忘れたけど、こうして同じ月を見て「平和」を祈るという趣向らしい。

 コンサートのはじまる3時ごろが一番の引き潮で、宴がすすむにつれ海が近づいてくる。座席の代わりにオリオンビールのケースとブルーシート、林立するマイクスタンドのバックに、すっかり姿をあらわした岩場、大浦湾をはさんでそのむこうの岬にキャンプ・シュワブが見える。
 なんだかすごい光景だなぁ!言いたければ、「フェリーニ的な」みたいなぁ〜。
 昨日まで一週間ばかり降り続いた雨が、うそみたい。夕日が眩しすぎる。冬至だというのにこの日差しは何だ!

 猿回しありーの、ブルースありーの、民謡ありーのでとっぷりと日は暮れて、地元代表にしてわが三線(さんしん)の師匠(もっとも、向こうは覚えてないだろうけどね)金城繁さんのステージから、ナビィって言う名前の実は広島生まれの内地人の女の人とナァグスクさんて言う那覇人(なはんちゅ)の男の人のユニット「寿」のエンディングに向かって、ほぼ全員総立ちのものすごい盛り上がりになった。


 5年前の、もう一つの「満月」を思い出していた。あのとき、一面の焼け跡とがれきの野の上に上った満月は、血のにじむように赤かったって。
 倒壊家屋がはみ出した道路を行き交う車が挨拶をしてゆずりあう。多分日本一運転マナーの悪い関西人がだよ!
 廃材を拾ってきて、小学校の校庭のテント村でたき火をする。救援物資を満載したトラックが国道を行き交い、FMラジオは、炊き出しや入浴サービスや移動散髪屋やバイクただで譲りますとかその他ありとあらゆる申し出を一日中放送しているの。そんな町を、ただ歩きまわった。
 おもえば、身体が「ゲル状」になってまわりの空気に溶け出してしまいそうな、そんな「無防備」な一体感はあの時以来かもしれない。

「満月の夕」

  風が吹く港の方から 焼け跡を包むようにおどす風
  悲しくてすべてを笑う 乾く冬の夕
  時を越え国境線から 幾千里のがれきの街に立つ
  この胸の振子は鳴らす 「今」を刻むため
  飼い主をなくした柴が 同胞とじゃれながら道を往く
  解き放たれすべてを笑う 乾く冬の夕

  ヤサホーヤ うたがきこえる 眠らずに朝まで踊る
  ヤサホーヤ 焚火を囲む 吐く息の白さが踊る
解き放て いのちで笑え 満月の夕
  星が降る満月が笑う 焼け跡を包むようにおどす風
  解き放たれすべてを笑う 乾く冬の夕

  ヤサホーヤ うたがきこえる 眠らずに朝まで踊る
  ヤサホーヤ 焚火を囲む 吐く息の白さが踊る
  解き放て いのちで笑え 満月の夕
  解き放て いのちで笑え 満月の夕

作曲:山口洋 作詞:中川敬 「ソウルフラワー・モノノケ・サミット」1995


 今日のこのお祭りは、私にとっても重要なデヴュー。「ヘリ基地いやです、一万人の声を!」なるキャンペーンのチラシがやっとできあがったのだ。プログラムの中にこっそり滑り込ませてもらった。
 わが友清水君は、沖縄国際大学南島文化研究所客員研究員などという立派な肩書きにもかかわらず、意地汚くお酒を飲む以外に絶対に取り柄がないと実は見くびっていたのだが、今日はものすごく活躍してくれた。あちこちでお酒を飲みまくった賜物なのだろう、豊富な人脈を生かしていろんな人を紹介してくれた。
 こうして私たちの作ったささやかなチラシが、沖縄全域に、全国に飛び立ってくれることになった。
 有名な人にたくさん会ったから、緊張しちゃった。海勢頭豊(うみせど・ゆたか)さんなんか握手してくれちゃったりして。「MABUI」をぼろくそにこき下ろした文章をこのホームページに載せてんだけど、大丈夫かな?削除しようかな?
 沖縄を代表する知性!有名な建築家の真喜志好一さんは、チラシの束を渡したときにはすでに字も読めないほど酔っ払ってたから、覚えてくれてないだろうなぁ。
 東京から来られた李政美(い・じょんみ)さんには一面識もないのに、どさくさに紛れて二束ほど押し付けてしまった。
 みなさんありがとうございました!これからもよろしく!

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1999/12/23 宮川 晋 miyagawasusumu@hotmail.com