センター・化学T(vol.2)

有機化学編

有機化学理論編

  • 有機化合物を作っているのは、すべて非金属元素(陰性元素)だ(C,H,O,N,・・・)。

  • わずかな種類の元素からできているのに、膨大な数の化合物があるのは、その結合の仕方が多様だからだ。
    つまり、有機化合物では、その「立体構造」が化学的性質に重要な影響を及ぼす。
    (立体構造は、四面体平面直線、ほぼ、この3つの組み合わせでできている。)

  • 構成元素の種類から分類すると、
    (1)炭化水素(C,Hのみ)、
    (2)酸素を含むもの(C,H,O)、
    (3)窒素を含むもの(C,H,O,N)など、
    に分類できる。 このうち、最も重要なのは、(2)酸素を含むもの、である。


  • 炭素と水素しか含んでいない炭化水素は、極性の小さい分子構造を作るから、水に溶けない、というぐらいしか「化学的性質」がない!っと言ってもいい。

  • 酸素、という強力な陰性元素を含んではじめて、有機化合物の「化学的性質」に多様性がでてくる。酸素がまわりの原子から電子を引き寄せてしまうからだ。

    酸素の配置にしたがって、有機化合物を分類する。
    上から下に、「アルコールの級酸化の様式」
    左右は、「異性体関係」
    • アルコール・エーテル
    • アルデヒド・ケトン
    • カルボン酸・エステル

  • 上の分類のキーワードは、
    • 第1級アルコールを酸化すると、アルデヒドを経てカルボン酸
      第2級アルコールを酸化すると、ケトン
      第3級アルコールは酸化されない。
    • アルコールとカルボン酸には-OH構造があるから「親水性」、
      エーテルエステルにはこれがないから「疎水性」。
    • アルデヒドはさらに酸化されてカルボン酸になるから、「還元性」があるが、
      ケトンはこれ以上酸化されないので、「還元性」がない。
各論編

有機化合物の製法、利用など・・・
  • 有機化合物の重要な反応も、多くは酸化還元反応だが、有機化合物の炭素の「酸化数」はそれほど簡単に計算できないので、反応式が正確に書ける必要はない。
  • 酸塩基反応としては、
    「弱酸塩に強酸を作用させると弱酸が発生」
    という理論で説明できるものが多い。したがって、有機酸の強さの順位、が重要。
    フェノール<二酸化炭素<カルボン酸
  • 有機化合物で、「塩基」といえば、ほぼ、アニリンしかない。
  • 有機化学で、濃硫酸といえば、脱水剤
    エステル化、ニトロ化、スルホン化、
    アルコールから、エーテルやアルケンをつくる反応など多数。


有機化合物の分類
























炭化水素





酸素を含む有機化合物の分類




















窒素・硫黄を含む有機化合物




異性体



有機化学・おもな反応















有機化合物の製法


  1. アセトアルデヒドの製法(3種)

      • アセトアルデヒドは酸化されてになりやすく、したがって、がある。このため、有機化学工業では重要な薬品である。
      • アセトアルデヒドを実験室で製造するには、を酸化すればよい。ただ、ニクロム酸カリウムのような強力な酸化剤を用いると、まで酸化されてしまう。そこで、とアセトアルデヒドの沸点の違いに着目して、発生したアセトアルデヒドをいったん気体にした上、冷却して液体で取り出す方法が考案された。

      • アセトアルデヒドの工業的製法としては、を付加する、という方法が長らく用いられてきたが、この工程では触媒として水銀を用い、甚大な環境汚染をもたらしたことから、現在では用いられていない。
      • 現在では、を酸化するという方法で、アセトアルデヒドが製造されている。


    • エタノールの酸化(実験室的製法)

      エタノールを、(硫酸酸性)ニクロム酸カリウムで酸化する。ニクロム酸カリウムのような強力な酸化剤で酸化すると、エタノール(第1級アルコール)は、アセトアルデヒド(アルデヒド)を経て、ただちに酢酸(カルボン酸)まで酸化されてしまう。
      CH3-CH2-OH
      (酸化)

      (酸化)
      エタノール
      (第1級アルコール)
      アセトアルデヒド
      (アルデヒド)
      酢酸
      (カルボン酸)

      アセトアルデヒドで酸化を「止める」には、どうしたらよいか?エタノールと酢酸にはあるが、アセトアルデヒドにはない、構造上の特徴は?

      エタノールと酢酸は、ともに「水酸基(-OH)」をもつ。水素・酸素間には大きな「電気陰性度」の差があるため、強力な電荷の偏りが生じている(極性)。このため「分子間力」が大きく、沸点高い
      アセトアルデヒドには、このような構造(水酸基)がないため、「分子間力」が比較的小さく沸点低い(エタノール・約80°C、アセトアルデヒド・約20°C)。

      この沸点の差を利用して、気体のアセトアルデヒドを取り出す。
      エタノールと、硫酸酸性ニクロム酸カリウムの混合溶液を、20°Cより高く80°Cより低い温度まで加熱する。酸化によって生じたアセトアルデヒドは、直ちに気体となる。これを、捕集し、再び冷却して、液体のアセトアルデヒドを得る。

    • アセチレンへの水付加(かつての工業的製法)

      アセチレンに水を付加すると、ビニルアルコールができるが、この物質はきわめて不安定で、直ちに、アセトアルデヒドに変化する。
      かつて工業的製法として広く用いられたが、この方法は、触媒としてHgSO4を用いたので、不十分な処理しかされなかった廃液が、環境中に放出され、「有機水銀中毒」という甚大な環境汚染を引き起こしたため、現在では用いられていない。
      CH≡CH + H2O
      (付加)
      ()
      (分子内転位)
      アセチレンビニルアルコール
      (不安定)
      アセトアルデヒド


    • エチレンの酸化(現在の工業的製法)

      CH2=CH2
      (酸化)
      エチレンアセトアルデヒド

























  2. フェノールの製法(3種)

    • ベンゼンに濃硫酸を加えて加熱すると、濃硫酸の作用により、が得られる。この反応を化と呼ぶ。
    • ベンゼンスルホン酸に、固体のを混ぜて加熱すると、が得られる。この方法をと呼ぶ。
    • ナトリウムフェノキシドに、フェノールよりも強い酸、例えばを作用させると、フェノールを取り出すことができる。
    • ベンゼンにを触媒として、塩素を作用させると、反応を起こして、が得られる。これに、高温高圧化でを作用させるとが得られる。
    • ナトリウムフェノキシドに、フェノールよりも強い酸、例えばを作用させると、フェノールを取り出すことができる。
    • フェノールの工業的製法としては、が知られている。これは、にベンゼンを付加し、をつくり、これを酸化した後、分解してフェノールとを得る、という方法である。


    • ベンゼンスルホン酸のアルカリ融解

      • ベンゼンに濃硫酸加えて加熱すると、濃硫酸の脱水作用により、ベンゼン環の-Hと硫酸の-OHがとれて、ベンゼンスルホン酸が得られる(スルホン化)
        + H2SO4
        (スルホン化)
        + H2O
        ベンゼンベンゼンスルホン酸

      • ベンゼンスルホン酸と、固体の水酸化ナトリウムを混ぜて加熱すると、ナトリウムフェノキシドが得られる(アルカリ融解)。
        +3NaOH
        (アルカリ融解)
        + Na2SO3+2H2O
        ベンゼンスルホン酸ナトリウムフェノキシド


      • フェノールよりも強い酸(炭酸・カルボン酸・その他の強酸)を作用させると、フェノールが遊離する。
        +HCl
        (弱酸塩+強酸)
        +NaCl
        ナトリウムフェノキシドフェノール

    • クロロベンゼン水酸化ナトリウムを作用させる

      • ベンゼンに鉄粉を触媒として、塩素を作用させる(置換反応)。

        +Cl2
        (置換)
        +HCl
        ベンゼン塩素クロロベンゼン塩化水素


      • クロロベンゼンに、高温高圧下で、水酸化ナトリウム水溶液を作用させると、ナトリウムフェノキシドが得られる。

        +NaOH高温高圧
        クロロベンゼン水酸化ナトリウム水溶液ナトリウムフェノキシド


      • フェノールよりも強い酸(炭酸・カルボン酸・その他の強酸)を作用させると、フェノールが遊離する。

        +HCl
        (弱酸塩+強酸)
        +NaCl
        ナトリウムフェノキシドフェノール


    • クメン法

      • ベンゼンにプロピレン(プロペン)を付加させると、クメンが得られる。
        +CH2=CH-CH3
        (付加)
        ベンゼンプロピレン
        (プロペン)
        クメン


      • クメンを酸化すると、クメンヒドロペルオキシドが生じ、これに希硫酸を加えると、分解してフェノールアセトンが得られる。


        (酸化)
        +
        クメンフェノールアセトン


  3. 芳香族カルボン酸、安息香酸・フタル酸・テレフタル酸の製法


      • ベンゼン環の側鎖にあるメチル基を酸化すると、最終的にはカルボキシル基にまで酸化される。
      • このことから、トルエンを酸化すると、が得られ、を酸化するとフタル酸、を酸化するとテレフタル酸が得られることがわかる。
      • フタル酸は、2個のカルボキシル基が「オルト」の位置にあり接近していることから、分子内脱水して容易にになる。ところが、テレフタル酸では、2個のカルボキシル基が「パラ」の位置にあって離れているから、このような反応は起こらない。
      • テレフタル酸とから「縮重合」によって作った高分子化合物は、として知られている。


    • トルエンを酸化すると、以下のように、第1級アルコールアルデヒドカルボン酸と順次変化する。酸化剤には過マンガン酸カリウムの「アルカリ性溶液」を用いる。生成した安息香酸を、塩として水溶液中に取り出すためである。その後、カルボン酸より強い酸を作用させて、安息香酸を得る。
      トルエンベンジルアルコールベンズアルデヒド安息香酸


    • 同様にして、o-キシレンからフタル酸が、p-キシレンからテレフタル酸が、得られる。
      (分子内脱水を行って、無水フタル酸となりやすい)
      o-キシレンフタル酸
      (エチレングリコールとの縮合重合により、ポリエチレンテレフタレートが作られる)
      p-キシレンテレフタル酸










  4. サリチル酸の製法

    • サリチル酸は、ベンゼン環のの位置に、フェノール性と、をもった化合物である。
    • は、最も弱い酸であるの塩であるから、これに二酸化炭素を加えると、が発生する。
      ところが、に、高温・高圧下二酸化炭素を作用させると、次のようなサリチル酸のナトリウム塩が生じる。

      フェノール二酸化炭素カルボン酸の順に酸は強くなるから、二酸化炭素の存在下では、フェノール性は電離できず、は電離できるからである。
    • この塩に、カルボン酸よりも強い酸、例えば、希などを作用させると、は電離できず水に不溶性となるから、遊離させて取り出すことができる。
    • は、フェノール性の両方を持っているので、2種類のエステル化が可能である。
      • とメタノールのエステル化によって、が得られる。これは、筋肉痛などに対する外用薬として利用されている。
      • と無水酢酸のエステル化によって、が得られる。これは、副作用の少ない鎮痛剤として広く用いられている。

    • ナトリウムフェノキシドに、高温・高圧下二酸化炭素を作用させる。
      「高温・高圧下」でなければ、単にフェノールが遊離する。
      (有機酸の強さ:フェノール二酸化炭素カルボン酸
      +CO2
      (加圧)
      ナトリウムフェノキシド


    • ここで生成したサリチル酸のナトリウム塩(カルボン酸は二酸化炭素より強い酸だから、カルボキシル基電離しフェノールは二酸化炭素より弱い酸だから、電離していない)に、カルボン酸より強い酸を加えると、サリチル酸が遊離する。
      +HCl
      (弱酸塩+強酸)
      +NaCl
      サリチル酸


  5. アニリン・アセトアニリド・アゾ染料の製法

    • ベンゼンに濃硫酸と濃硝酸を作用させると、濃硫酸の作用により、ベンゼン環と硝酸から脱水して、が得られる。この反応をと呼ぶ。
    • ニトロベンゼンをスズなどを用いてすると、まず、が得られ、これに水酸化ナトリウムなどの強塩基を作用させて、を得ることができる。
    • アニリン塩酸塩にを加えて冷却すると、が生成する。この過程を化と呼ぶ。
      この物質は、きわめて熱に弱く、加熱すると分解して、が生じる。
    • アニリンに無水酢酸を作用させると、ができる。この物質の-NH-CO-結合は、と呼ばれ、生体内のタンパク質の構成単位ともなっている重要な結合である。
    • 塩化ベンゼンジアゾニウムにを作用させると、という反応により、「アゾ染料」の一種が得られる。


    • アニリンの製法
      濃硝酸・濃硫酸

      (ニトロ化)
      Sn,HCl

      (還元)
      ベンゼンニトロベンゼンアニリン塩酸塩
      NaOH

      (弱塩基塩+強塩基)
      アニリン塩酸塩アニリン




    • アニリンのアセチル化(アセトアニリドの製法)
      +
      (脱酢酸・アセチル化)
      アニリン無水酢酸アセトアニリド






    • 塩化ベンゼンジアゾニウムの製法
      +NaNO2+HCl冷却

      ジアゾ化
      +NaCl+2H2O
      アニリン
      塩酸塩
      亜硝酸
      ナトリウム
      塩化ベンゼン
      ジアゾニウム


    • 塩化ベンゼンジアゾニウムの熱分解

      塩化ベンゼンジアゾニウムは熱分解しやすい不安定な物質なので、冷却して精製する。加熱すると、以下のように分解する。
      +H2O+N2+HCl
      塩化ベンゼンジアゾニウムフェノール

    • アゾ染料の製法・アゾカップリング
      +
      アゾカップリング
      塩化ベンゼン
      ジアゾニウム
      ナトリウム
      フェノキシド
      p-ヒドロキシアゾベンゼン
      (p-フェニルアゾフェノール)


























有機化合物の検出法













有機化合物の定量問題・「酸素を含む有機化合物」の燃焼による質量分析


C,H,Oでできている有機化合物を、完全燃焼させると、二酸化炭素(CO2)と水(H2O)以外のものは発生するわけがない。

  [例題]



  [処理手順]
  1. 二酸化炭素に含まれる、炭素の質量を計算する。
  2. 水に含まれる、炭素の質量を計算する。
  3. 残りの質量が、酸素の質量になる。

    C33.0×10-3×=9×10-3[g]
    H13.5×10-3×=1.5×10-3[g]
    O14.5×10-3-(9×10-3+1.5×10-3)=4.0×10-3[g]
    合計14.5×10-3[g]

  4. それぞれの原子量で割って、モル数の比を求める。これで「組成式」が得られる。

    C,H,Oのモル数の比は、
    (9/12):(1.5/1):(4/16)=3:6:1

    組成式は C3H6O

  5. 分子量が与えられれば、「分子式」が定まる。その他の化学的性質から、「構造式」が決まる。

    「銀鏡反応」を示すことから、この物質はアルデヒドであるから、C2H5-CHO





油脂、けん化、油脂に関する定量問題























抽出による芳香族化合物の分離




フェノール 安息香酸 トルエン アニリン
HCl エーテル層 エーテル層 エーテル層 水層
NaOH 水層 水層 エーテル層 エーテル層
NaHCO3 エーテル層 水層 エーテル層 エーテル層




















[参考]  有機化合物のIUPAC命名法


有機物の命名のルールを定めたもののひとつに「IUPAC(International Union of Pure and Applied Chenmistry)」命名法がある。星の数ほどもある有機物に的確な名前をつけることはきわめて困難で、IUPACのルールブックは、一冊の分厚いマニュアルになるほどだそうであるが、ここでは、ごく簡単な化合物についてのルールを説明する。
どんなに激しく枝分かれしている有機化合物でも、炭素だけでできているもっとも長い「鎖」を特定することはできる。これを「主鎖」と呼ぶ。
IUPAC命名法では
たとえば、2-メチル,2-プロパノールは、 2-ブテンは、



1,1-ジクロロエタン 2,4,6-トリブロモフェノール