固体の溶解度と、気体の溶解度
一般に、固体の溶解度は、温度が高いほど
大きく
、気体の溶解度は、温度が高いほど
小さく
なる。なぜだろうか?
(熱い紅茶の方が、砂糖がよく溶ける。ぬるい炭酸飲料は「気が抜けて」しまう。)
固体
では、それを構成する粒子(イオン、分子など)が、粒子間に作用する
静電引力、分子間力などによって、強くひきつけられて
いるから、容易にその位置を変えることができず、狭い空間の中に密集して存在している。
気体
では、それを構成する粒子(通常、分子)が、大きな運動エネルギーを持って広い空間を移動しており、相互に接近する可能性はきわめて低いから、
分子間力の拘束をほとんど受けない
(分子間力、静電引力は、距離が極めて小さくならない限り、問題にならないほど小さい)。
固体が、液体に溶解する
のは、(溶媒として「水」を取り上げるなら、)、固体を構成するイオンや極性分子が、それらの間の静電引力や分子間力による結合を断ち切って、新たに極性分子である水分子との間に、「水和結合」と言う静電引力にもとづく結合を作り出し、その「かたまり」が、水分子の間に拡散していって安定化するからだ。
そもそも、このような変化が生じるのは、固体に比べてはるかに大きな運動エネルギーを持っていた溶媒(水)分子が、固体のかたまりの一角に衝突し、エネルギーを与えるからに他ならない。ならば、溶媒の温度が高く、水分子が大きな運動エネルギーを持っているほうが、このような衝突が起こる頻度も、衝突によって固体の結合が解かれ、水和結合が形成されて、固体の粒子が溶媒中に散らばっていく確率も、高くなるだろう。
したがって、温度が高いほど、一般に固体の溶解度は大きい。
気体分子が、液体に溶解する
のは、液体に比べて充分大きな運動エネルギーを持っていた気体分子が、液面に衝突して、そのエネルギーを失い、その一部を溶媒(水)分子との間の「水和結合」のエネルギーとして用いて、溶媒の中で安定化するからだろう。
温度が上がると、液体中に拘束されている(元)気体分子も、溶媒分子も、より大きな運動エネルギーを持つことになるから、(元)気体分子は、水分子との水和結合を断ち切って、液体表面からはるかに大きな空間に飛び出していく確率が高くなるだろう。
したがって、温度が高いほど、一般に気体の溶解度は小さい。
固体の溶解度/再結晶による析出量の計算
固体の溶解度の定義
固体の溶解度
溶媒100gに最大限溶けることのできる(無水物としての)溶質の質量[g]
【例題】硫酸銅(II) CuSO
4
の水に対する溶解度は、25
で22.2、80
で56.0である。
80
の硫酸銅(II) 飽和水溶液100gを25
に冷却したとき、析出する結晶がすべて硫酸銅(II) 5水和物 CuSO
4
・5H
2
O だったとすると、その質量はいくらか?
析出する硫酸銅(II)5水和物CuSO
4
・5H
2
Oの質量を
x
[g]とすると、
式量は、CuSO
4
= 160 , CuSO
4
・5H
2
O = 250 であるから、
x
のうち、160/250が溶質から、90/250が溶媒から、それぞれ失われたことになる。
溶質
溶媒
溶液
80℃
100
56.0
100
156.0
25℃
100-
x
22.2
100
122.2
こうして得られた、析出後の溶質と溶媒の質量の比は、25℃における飽和水溶液の溶質、溶媒比に等しいから、
:
= 22.2 : 100
これを解いて、
気体の溶解度/ヘンリーの法則
ヘンリーの法則
ヘンリーの法則(表現1)
液体に溶解する気体の
体積
は、その
圧力
に関わらず
一定
である
ヘンリーの法則(表現2)
液体に溶解する気体の
物質量
は、液体に接している気体の
圧力
に
比例
する
30年ほど前の化学の教科書には、「ヘンリーの法則」について、「表現1」の形で書かれていたはずだ。
数ある化学の法則の中でもとびきり難解で、ほとんど意味不明であった。大体、溶解した気体に「体積」があるのか?
自然科学の法則の「価値」は、それが発見された時代の文脈の中で判定されなければならない。ヘンリー氏が、どうしてこんな言い方を
しなければならなかった
かを考えてみる。
一定量の水と一定量の窒素の気体を、滑らかなピストン付きの容器に閉じ込め、圧力
P
1
を加える。十分時間が経過した後、水に溶けている窒素の量を測定するに当たって、その質量を計ろうとしなかったのは、技術的な制約があったのだろうか、ヘンリー氏はこれを再び加熱するなりして気体に戻し、その体積を計った。気体の体積は、温度・圧力の条件によって激しく変わる。そこではじめに液体と接触させていた同じ温度・圧力の条件を用いた。
同じ温度で、別の圧力
P
2
のもとで同じ実験をしてみたが、測定された体積は変わらなかった、というのが「オリジナル」のヘンリーの法則の意味だ。
これを、今日の常識である「状態方程式」にのっとって「解釈」してみると、
P
1
の圧力の下で液体に溶け込んだ物質量を
n
1
、
P
2
の圧力の下で液体に溶け込んだ物質量を
n
2
、とすれば、実験時の温度を
T
0
、測定された体積を
V
0
とすれば、
P
1
V
0
=
n
1
R
T
0
P
2
V
0
=
n
2
R
T
0
ここから、「ヘンリーの法則」の今日の形、「液体に溶解する気体の物質量は、液体に接している気体の圧力に比例する」、が導けた。
塩化水素(HCl)やアンモニア(NH3)のように、水に極めて溶けやすい気体の水に対する溶解度に関しては、「ヘンリーの法則」が成り立たない。なぜか?
一定の圧力の下で溶媒に接している気体の分子が、十分な時間が経過した後、その一部が溶媒に「溶ける」という現象は、次のような「平衡状態」の存在を前提としている。
気体分子のうちあまり大きな運動エネルギーを持っていなかったものが、液面で溶媒分子との分子間力によって捕捉され、溶媒内部に取り込まれる。
反対に、溶媒内部に存在していた気体分子のうち、大きな運動エネルギーをもったものが、液面で溶媒分子との分子間力を振り切って、気体に戻っていく。
この2つの反応の「反応速度」が等しくなり、見かけ上反応が止まってしまったといわれる状態が、「十分時間経過後」の状態といえる。これを「第1の平衡」とする。
ところが、液中の気体分子が、溶媒分子と「反応」したらどうだろう。たとえば、アンモニア分子は、水に溶けるとその一部が、次のように電離する。
NH
3
+H
2
O
NH
4
+
+OH
-
これもまた一つの平衡関係であって、これを「第2の平衡」とする。
液面に接する気体の圧力を高くすると、溶解するアンモニア分子は増える。
そうすると、「第2の平衡」が右に移動する。
液体中のアンモニア分子が減るから、今度は「第1の平衡」が移動する。
・・・
という複雑なプロセスが生じてしまうから、ヘンリーの法則は成り立たなくなる。
【例題】20
、1.0×10
5
Paで、水1mLに溶解することのできる酸素、および窒素の量を標準状態に換算すると、それぞれ0.031mL , 0.015mLである。
空気を、酸素と窒素の体積比 1:4 の混合気体とみなすと、空気が20℃、1.0×10
5
Paで、1Lの水に接しているとき、水に溶けている酸素および窒素の質量は、それぞれいくらか。
溶解する気体の物質量は、「
分圧
」に比例する。酸素と窒素の「体積比」とは、それぞれを別の容器で同温同圧のもとで測定したとき得られたはずの、体積比、すなわち「物質量(モル数)」の比である。これが混合気体の「分圧比」になる。
酸素:
[g]
窒素:
[g]