ベクトルの「1次独立性」とは?
「独立 independent」は、「従属 dependent」に否定の接頭辞in-を
あとから
くっつけて派生した言葉だ。
「有理数」で
ない
ものが「無理数」と定義されるのと同じように、「従属」で
ない
ものが「独立」なのだ。
ではベクトルの「1次従属性」とは?
「他者」に
よって
表現されてしまうことである。
たった2個のベクトルの間の関係なら、これは「
定数倍
」しか考えられない。すなわち、
=
t
となる実数
t
が存在するならば、
は
の「定数倍」として表現されてしまっているから、
は
に「従属」である。
t
=0なら、
は零ベクトルだから、零ベクトルはすべてのベクトルに「従属」である。
3個のベクトルの間の関係なら、あるベクトルが、他の2個のベクトルの「
定数倍
および
足し算
」で(これを「1次結合」と呼ぶ)表現されるときである。すなわち、
=
s
+
t
となる実数
s
,
t
が存在するならば、
は
と
の「1次結合」として表現されてしまっているから、
は
と
に「従属」である。
「1次独立性」は、これを
否定
すればよいのだから、
2個のベクトルの間の関係では、どちらの一方も、それぞれ他方の「
定数倍
」としては決して表現できないこと。
つまり、2次元(平面ベクトル)の世界では、
いずれも零ベクトルでなく、かつ、
互いに平行でないこと
となる。
ただし、本当は(!)ベクトルには「平行」という概念は、ない。ベクトルは「大きさ」と「方向」という2つの要素のみを持ち、したがって「位置」は表さない。平行移動して重なるベクトルは、「平行」なのではなくて、同じベクトルなのである。
3個のベクトルの間の関係では、どの1個も、他の2個の「1次結合」としては決して表現できないこと。
つまり、3次元(空間ベクトル)の世界では、
いずれも零ベクトルでなく、かつ、
どの2個も、互いに平行でなく、かつ、
3個が同一平面上にないこと
となる。
こちらも、本当は(!)ベクトルは「大きさ」と「方向」という2つの要素のみを持ち、したがって「位置」は表さないから、同一平面上にあるかどうかは、本来知ったことではない(!)。3個のベクトルの根元(始点)を1点にそろえた場合に、という意味である。
平面ベクトルの「1次独立性」に関する重要な原則
平面内の任意の点を表す位置ベクトルは、
2個の
1次独立な
ベクトルの、
1次結合
によって、
ただ
一通りに
(一意的に)、
表現できる。
したがって、平面ベクトル問題の「処理手順」は、次のようになるだろう。
始点
をどこにするか?、を決める。・・・例えばAとする。
2個の
1次独立
ベクトルを、選ぶ(これを「基底」と呼ぶ)。・・・例えば
,
とする。
他のすべてを表す位置ベクトルはこれらにたいして
1次従属
なのだから、
かならず、2個の「基底」の
1次結合
で表されるはずだ!
・・・例えば、
=
p
+
q
のように。
だから平面ベクトルの基本図形は三角形なのである。三角形のどの2辺も、必ず1次独立である。四角形では、4番目の点は必ず1次従属である!
必要な「道具(ツール)」は、次のもの
だけ
。
始点のつけかえルール
始点のつけかえルール
=
-
もとのベクトルの「終点から始点を引く」。ベクトルは「幾何学」の道具ではない!、「線形代数学」という分野の演算システムの一つなのだ。図を描いてみて考えつく、のではなく、まったく形式的な演算で結論が得られるところに意義がある!
共線条件(3点が同一直線上にある条件)
異なる2点が与えられれば、それらを通る直線がただ1本、決定する。
ここに新たな3点めが現れたとき、それがこの直線上にあるためには条件が必要だ。
共線条件
Pが直線AB上にあるならば、
=
t
・・・(1)
ここに上の「始点のつけかえルール」を適用すると、
=(1-
t
)
+
t
・・・(2)
もちろん、(1),(2)は同値である。
[練習]・・・2直線の交点を求める。
ABCにおいて、ABの中点D、ACを2:1に内分する点をE、線分CDと線分BEの交点をPとするとき、CP:PD、BP:PEを求めよ。
PがCD上にあることから、
=
s
PがBE上にあることから、
=
t
これらを「始点のつけかえルール」など、を用いて2個の
1次独立
ベクトルの
1次結合
で表現する。
そんな方法は、
ただ一通り
(一意的に)しか存在しないはずだから、
2個の1次独立ベクトルの係数は、それぞれ等しい!
こうして「
未知数
2個」に対して「
条件式
2個」が得られるから、必ず、解ける。
空間ベクトルの「1次独立性」に関する重要な原則
空間内の任意の点を表す位置ベクトルは、
3個の
1次独立な
ベクトルの、
1次結合
によって、
ただ
一通りに
(一意的に)、
表現できる。
したがって、空間ベクトル問題の「処理手順」は、次のようになるだろう。
始点
をどこにするか?、を決める。・・・例えばAとする。
3個の
1次独立
ベクトルを、選ぶ。・・・例えば
,
,
とする。
他のすべてを表す位置ベクトルはこれらにたいして
1次従属
なのだから、
かならず、3個の「基底」の
1次結合
で表されるはずだ!
・・・例えば、
=
u
+
v
+
w
のように。
だから空間ベクトルの基本図形は四面体なのである。四面体のどの2辺も、必ず1次独立である。直方体や立方体では、5番目以降の点は必ず1次従属である!
必要な「道具(ツール)」は、次のもの
だけ
。
始点のつけかえルール
共線条件(3点が同一直線上にある条件)
共面条件(4点が同一平面上にある条件)
同一直線上にない3点が与えられれば、それらを含む平面がただ1つ、決定する。
ここに新たな4点めが現れたとき、それがこの平面上にあるためには条件が必要だ。
共面条件
Pが
ABCを含む平面上にあるならば、
=
u
+
v
・・・(1)
ここに上の「始点のつけかえルール」を適用すると、
=(1-
u
-
v
)
+
u
+
v
・・・(2)
もちろん、(1),(2)は同値である。
[練習]・・・平面と直線の交点を求める。
四面体ABCDにおいて、
BCDの重心G、ADの中点M、線分AGと
BMCを含む平面との交点をPとするとき、AP:PGを求めよ。
PがAG上にあることから、
=
w
Pが
BMCを含む平面上にあることから、
=
u
+
v
これらを「始点のつけかえルール」など、を用いて3個の
1次独立
ベクトルの
1次結合
で表現する。
そんな方法は、
ただ一通り
(一意的に)しか存在しないはずだから、
3個の1次独立ベクトルの係数は、それぞれ等しい!
こうして「
未知数
3個」に対して「
条件式
3個」が得られるから、必ず、解ける。
内積
について。
ここまでは、
どんな三角形
でも、
どんな四面体
でも、成り立つ話しかしてこなかった。
長さ
を問題にする場合でも、内分比のような
相対的な
値しか問題にしてこなかった。
形の特定された
三角形、四面体、すなわち、角度や、
絶対的な
長さを問題にするには、「
内積
」の値、という新たな「情報」が必要になる。
平面ベクトルでは
2個
の
1次独立
な「基底」ですべてが表現できた。
それらの
内積
の可能な組み合わせは、
3個
しかない。
・・・例えば、「基底」が、
、
なら、
・
、
・
、
・
これは「三角形の合同条件」に対応している。「3辺相等」、「2辺夾角相等」、「2角夾辺相等」、いずれも「情報」は3個。「合同条件」というのは、この世にそのような三角形はただ一つしかない、という意味で、三角形の形が特定される条件なのである。
空間ベクトルでは
3個
の
1次独立
な「基底」ですべてが表現できた。
それらの
内積
の可能な組み合わせは、
6個
しかない。
・・・例えば、「基底」が、
、
、
なら、
・
、
・
、
・
・
、
・
、
・
内積
を用いる空間ベクトルに固有の「道具(ツール)」
平面
α
と直線
l
が「垂直である」とは、どういうことか?
直線
l
が、平面
α
に含まれる
任意の
直線と「垂直である」。
ところで、平面
α
に含まれる
任意の
直線上の任意のベクトルは、
平面
α
上の、たった2個の
1次独立
ベクトルの
1次結合
で、
表現される!、だから、
直線
l
が、平面
α
に含まれる2個の
1次独立
ベクトルと「垂直」であればよい。
[練習]・・・三角形の4心のうち、「重心」のみは、三角形の形に関わらず同じ式で表される。すなわち「内積」を必要としない。
「外心」、「内心」、「垂心」はいずれも、三角形の形状が特定されない限り、場所を特定することが出来ない。すなわち「内積」を必要とする。
ABCにおいて、AB=AC=2、BC=3とする。重心G、外心O、内心I、垂心Hとするとき、
、
、
、
を
、
で表せ。
[練習]・・・四面体の頂点から、向かい合う面に下ろした垂線の足。
4点O(0,0,0),A(1,0,0),B(0,1,0),C(0,0,
)を頂点とする四面体OABCについて、
Oから
ABCを含む平面に下ろした垂線の足をHとするとき、
を
、
、
で表せ。