- 2次の正方行列A,Bに対して、
AB=Oただし、AOかつ、BO
となるものが存在するとき、
A,Bはいずれも逆行列をもたないことを示せ。
- 2次の正方行列Aに対して、
Aが逆行列をもたないならば、
AB=Oただし、AOかつ、BO
となる2次の正方行列Bが存在すること、
また、
B'A=Oただし、AOかつ、B'O
となる2次の正方行列B'が存在すること、
を示せ。
i,iiは互いに「逆」の命題である。
-
AB=Oただし、AOかつ、BO
となる行列A,Bを「零因子」と呼ぶ。
- 逆行列をもたない行列を「非正則な」行列と呼ぶ。
- iは、「零因子」なら「非正則」である、と言っている。
- iiは、「非正則」なら「零因子」である、と言っている。
つまり、「零因子」であることと「非正則」であることが、同値であることを示したいわけだ。
[証明]
- 「背理法」による。
2次の正方行列A,Bに対して、
AB=Oただし、AOかつ、BO
となるものが存在し、かつ、
Aが逆行列A-1をもつと仮定する。
AB=Oの両辺に、左からA-1をかけて、
A-1AB=A-1O
EB=O
B=O
これは、BOの仮定に反する。
よって、Aは逆行列をもたない。
2次の正方行列A,Bに対して、
AB=Oただし、AOかつ、BO
となるものが存在し、かつ、
Bが逆行列B-1をもつと仮定する。
AB=Oの両辺に、右からB-1をかけて、
ABB-1=OB-1
AE=O
A=O
これは、AOの仮定に反する。
よって、Bは逆行列をもたない。
-
- [準備]「連立1次斉次方程式」の「非自明解」問題
2次の正方行列Aに対して、x,yに関する連立1次斉次方程式(定数項がない1次方程式)
が、
以外の解(非自明解)をもつ必要十分条件は、Aが逆行列をもたないことであることを示せ。
-
が、
以外の解をもつならば、Aは逆行列をもたないことを示す。
が、
以外の解をもち、かつ、Aが逆行列A-1をもつと仮定する。
両辺に左からA-1をかけて、
すなわち、
これは、仮定に反する。よって、Aは逆行列をもたない。
- Aは逆行列をもたないならば、
が、
以外の解をもつことを示す。
Aが逆行列をもたないことは、その行ベクトル同士が1次従属であることと同値である。
と書くことができる。
k10に対して、は、明らかにの解である。
a,bがともに0であるとき、この解はとなるが、
このときはA=Oであるので、任意の(x,y)が解となり、この中からでないものを見つけることができる。
- 2次の正方行列Aに対して、
Aが逆行列をもたず、AOであるとき、
と書くことができる。ただし、a,bの少なくとも一方、p,qの少なくとも一方は0ではない。
このとき、
k10、k20に対して、、は、明らかにの解である。
したがって、は、AB=Oを満たす。
また、
t10、t20に対して、、は、明らかにの解である。
したがって、は、B'A=Oを満たす。
以上、示された。
- [例1]に対して、AB=O,B'A=Oとなる、零行列でないB,B'を求めよ。
ただし、k1,k2のうち少なくとも一方は0でない。
ただし、t1,t2のうち少なくとも一方は0でない。
- [例2]に対して、AB=O,B'A=Oとなる、零行列でないB,B'を求めよ。
ただし、k1,k2のうち少なくとも一方は0でない。
ただし、t1,t2のうち少なくとも一方は0でない。
これらのB,B'には、A自身も含まれる。つまり、AがAの「零因子」になっている。Aが零行列でないのに、A2が零行列になっている。これを「ベキ零行列」と言う。
- [ついでに、ベキ零行列]
- 2次の正方行列Aに対して、
An=Oただし、AO
となる自然数nが存在するとき、
Aは逆行列をもたないことを示せ。
- A2=Oであることを示せ。
- An=Oただし、AO
となる自然数nが存在し、かつ、
Aが逆行列をもつと仮定する。
A-1を両辺に左からn回かけて、
(A-1)nAn=(A-1)nO
すなわち、E=O
これは不合理である。よってAは逆行列をもたない。
- とすると、ハミルトン・ケーリーの定理より、
A2-(a+d)A+(ad-bc)E=O
Aが逆行列をもたないことから、
ad-bc=0
よって、
A2=(a+d)A
したがって、
An=(a+d)n-1A
ここで、
An=Oかつ、AOであるから、
a+d=0
よって、
A2=O