シクロデカン

デカリン

問題文中の「全いす型シクロヘキサン」は「全いす型シクロデカン」の誤りでしょう。デカリンの方は、「橋かけ構造」ですから、bicyclo[2,2,0]decaneとでもなるのかと思ったが、どうも、この表記法は、どの「橋」にも少なくとも一つの炭素がある場合に用いるようで、IUPAC名は、違うようです。でも、下に紹介したWEBSITEで「bicyclodecane」と入力すると出ましたから、慣用名としては正しいのかも知れない。不思議なことに、そのページには、通称名として「decaline」とあるのに、「decaline」で検索すると、なんだか違うものが出てきてしまう(笑)。問題文に、「transデカリン」とあるのは、確証はないが、「橋」の両端の水素が、トランス位になっているからではないかと思います。そうでなければ、つまりシス位なら、「全いす型」にはならないのだと思います。

transデカリン?

さて、問題の答えは、明らかですね!、やはり3次元画像というのは凄い。「全いす型シクロデカン」では、「アクシアル」位の水素の「混み合い」方が、激しい。それが真ん中に「橋」をかけるだけで、みんなトランス型になっちゃうんですね。だから、「transデカリン」の方は、空間的に「スカスカ」なのでしょう。
番号のつけ方は適当ですが、下の図で、シクロデカンの1-6に「橋」をかけて、デカリンにすると、2-5と7-10の間の、「ジ・アクシアル相互作用」が解消されていることがわかります。

全いす型シクロデカン

transデカリン
アメリカ合衆国のNational_Center_for_Biotechnology_Imformationなる国家機関が運営している PubChem_coumpound_search というのがあって、化合物名(IUPAC名でも、慣用名でも)を入力すると、構造を教えてくれる。
cyclodecane」、 「bicyclodecane」、 と入力して、検索結果の一番上に、たいがい目的のものが出ているから、それをクリック、「3D_Conformer」を選ぶと、3次元画像を見せてくれる。回転(Rotation)オプションで適当な角度を選ぶ。骨格だけではわかりにくいから、「Hydrogen」オプションを選ぶと、水素の向きがわかる。
上の画像は、そうやって出てきたものです。
コンピュータの3D画像に頼らず、手書きでやってみたいと思い、でも、結局上の図をカンニングしているのだから同じだが(笑)、やってみた。
答案としては、「架橋されることによって、近傍の炭素が捻られ、ジアクシアル相互作用が解消される」といったあいまいな(笑)書き方で十分だと思う。
シクロヘキサンは、ひとつの「いす型」から「舟形」を経て、もうひとつの「いす型」に変換するが、その際の1位から4位の水素の一の動きを図示した。オレンジ色「U」が、環の上側upper、ブルー「L」が環の下側lower。反転によって、「上下関係」は変わらない。だから、cis/transが、これによって決められる。

「ジ・アクシアル」相互作用は、左のコンフォメーションの1U-3U-5U間、2L-4L-6L間で、右のコンフォメーションでは2U-4U-6U間、1L-3L-5L間で、それぞれ生じる。
  1. 1,2-transdimethylcyclohexane  1Uと2Lが、メチル基である。
    • 左のコンフォメーションでは、1U-3U、1U-5U、2L-4L、2L-6Lに、CH3・・・Hの「ジ・アクシアル」相互作用が生じている。
    • 右のコンフォメーションでは、1Uも2Lも、「エクアトリアル」であるから、極めて安定である。
    相互変換の平衡は、右に偏り、右のコンフォメーションが大部分を占めるであろう。
  2. 1,3-transdimethylcyclohexane  1Uと3Lが、メチル基である。
    • 左のコンフォメーションでは、1U-3U、1U-5Uに、CH3・・・Hの「ジ・アクシアル」相互作用が生じている。3Lは「エクアトリアル」である。
    • 右のコンフォメーションでは、3L-1L、3L-5Lに、CH3・・・Hの「ジ・アクシアル」相互作用が生じている。1Uは「エクアトリアル」である。
    相互変換の平衡は、どちらにも偏らず、左のコンフォメーションと、右のコンフォメーションがおよそ半々ずつを占めるであろう。
  3. 1,4-transdimethylcyclohexane  1Uと4Lが、メチル基である。
    • 左のコンフォメーションでは、1U-3U、1U-5U、4L-2L、4L-6Lに、CH3・・・Hの「ジ・アクシアル」相互作用が生じている。
    • 右のコンフォメーションでは、1Uも4Lも、「エクアトリアル」であるから、極めて安定である。
    相互変換の平衡は、右に偏り、右のコンフォメーションが大部分を占めるであろう。
A、Cでは、メチル基がいずれも「エクアトリアル」に位置できる安定なコンフォメーションを採用できるから、平衡がそちらに偏るのに、Bでは、平衡がどちらに偏っても、CH3・・・Hの「ジ・アクシアル」相互作用が残ってしまう。従って、Bが最も不安定、蓄えているエネルギー(自由エネルギー)が最も大きく、従って、燃焼して、CO2とH2Oにしてしまうに際して、最も多くのエネルギー(燃焼熱)を放出する。