物理I・IIテキスト(2011年版)第１分冊:「数学的な予備知識」、「力学」

数学的な予備知識

スカラー量とベクトル量

スカラー量：「大きさ」のみを問題にする量。ただし、｢正負｣はある。1次元の数直線に対応することができる量。
ベクトル量：「大きさ」と「方向」を問題にする量。ただし、｢位置｣は問題にしない。平行移動して重なるものは、｢同じ｣ベクトルである。

	スカラー量	ベクトル量
力学	時間t[s] 質量m[kg] エネルギーW[J]	変位x[m] 速度v[m/s] 加速度a[m/s²] 力F[N] (運動量mv[kg・m/s]) (力積Ft[m・s]) 力のモーメントFx[N・m]
熱力学	(絶対温度T[K]) 体積V[m³]	圧力P[Pa=N/m²]
電磁気学	電荷q[c] 電位V[V]	(電場E[N/c=V/m]) (磁場H[N/wb=A/m]) (磁束密度B[T=wb/m²])
カッコが付けてあるのは、は物理Ⅱの内容

SI(Standard International)単位系

長さ[m]、質量[kg]、時間[s]、を3つの基本単位として、その他の単位はすべてこれらの｢掛け算｣または｢割り算｣として表現できる。3つの頭文字をとってMKS単位系と呼ぶ。
電磁気学では、これに電流[A]を加える(MKSA単位系)。
- ｢力｣の単位[N]は、｢運動方程式｣ F=ma から
  [N=kg・m/s²]
- ｢仕事｣の単位[J]は、｢仕事の定義｣ W=Fx から
  [J=N・m=kg・m²/s²]
- 「圧力」は、単位面積あたりに、作用する「力」だから
  [Pa=N/m²]
- 「電流」は、単位時間(1秒)あたり、ある断面を通過する「電荷」だから
  [A=c/s]
- 絶対温度の単位[K]は、例外。MKSの組み合わせでは表現できない。｢熱｣と｢温度｣にどんな関係があるかを調べるのが｢熱力学｣全体の目的だった。
  ｢気体分子運動論｣から、理想気体の内部エネルギーは絶対温度に比例する、ことがわかる。
ものの｢個数｣を表す自然数には、たとえ｢個｣、｢回｣などの名前がついていても、物理学上の単位はない。
- 「振動数」fの単位｢ヘルツ｣は、1秒間あたりの回数だから、[Hz=1/s]

同じ単位をもつもの同士の｢比｣をあらわす量には、単位はない。

「三角比」は、直角三角形の辺と辺の長さ[m]の比だから単位はない。
sinθ=y/r cosθ=x/r tanθ=y/x
｢ラジアン(rad)｣も、扇型の中心角を、｢弧｣の長さ[m]と｢半径｣の長さ[m]の比で表したものだから、本来、単位はない。
θ=l/r

｢物理法則｣のしくみ
- ｢線形化｣ということについて。
  - おもな物理法則は、ほとんどが、｢比例｣または｢反比例｣という単純な｢美しい｣数式になっている。別に不思議なことではなくて、人間はそれぐらいの単純な関係しか見抜けないからだろう。
    試しに、ある実験の結果、原点を通り右上がりの曲線のデータが得られたとしよう。
    そのグラフを描いてみて、その曲線が、たとえば２次関数なのか指数関数なのか、はたまた三角関数の一部なのか、・・・、を断言できる人は、誰もいない。
    「原点を通り右上がりの曲線」など、この世に無数にあるからだ。
    
    でもたとえば、左の図のような様々な曲線も、
    - y=5x²ならば、x²=Xと置き換え、・・・、y=5X
    - y=2tanxならば、tanx=Xと置き換え、・・・、y=2X
    - y=2^x-1ならば、log(y+1)=Yと置き換え、・・・、Y=(log2)x
    とすることによって、いずれも、誰の目にも明らかな｢原点をとおる直線｣に｢変換｣することができる！
    だから、科学者たちは、｢比例関係｣を見つけた、というよりは、｢原点を通る直線｣すなわち｢比例関係｣、になるような｢量｣を必死で探した、と言ってもいい。、
    ｢反比例｣だって、本当は、はじめから｢反比例｣がわかったのではないかも知れない。右下がりのグラフになるから、横軸を「x分の1」にしてみたら直線になった！、ということかも知れないのだ。
    
    高校で学ぶ数学の中にも、このような｢原点を通る直線関係｣に置き換える手法(｢線形化｣という)はしばしばみられる。
    - 放物線の｢頂点｣
      y=a(x-p)²+q
      は、Y=y-q、がX=(x-p)²、と｢比例｣している、と見ることができるから、こういう変形をする。
    - 漸化式 a_n+1=pa_n+q は、
      a_n+1-α=p(a_n-α)
      となるような数αを探せば、b_n=a_n-αの第n+1項が第n項の「定数倍」であること、つまり｢等比数列｣であることが分かるから、こういう変形をする。
  - 「摂氏温度」すなわち｢セルシウス温度｣というのは、私たちの身近にある｢水｣という物質の常圧における凝固点を0、沸点を100にして、その間を100等分したものだから、便利ではあるけれど物理学的に｢根拠｣があるものとは言えない。
    実際、「シャルルの法則｣で発見されたのは、
    - 「気体の体積は温度一度上昇するたび、0のときの体積を基準にしてその1/273ずつ増加する」
    というものだった。
    これは「原点を通らない直線」だから、都合が悪い。原点を通るようにするには、
    -273を「絶対零度」として、「原点」にすればよい。その結果、
    - 「気体の体積は絶対温度に比例する」
    と、言えるようになった。これも「線形化」の一例である。
- 「物理法則」の「読み方」
  - 「オームの法則」V=IR、では、
    - 抵抗Rが一定のとき、電位差Vと電流Iは「比例」する。
    - 電流Iが一定のとき、電位差Vと抵抗Rは「比例」する。
    - 電位差Vが一定のとき、電流Iと抵抗Rは「反比例」する。
  - 「運動方程式」F=ma、では、
    - 質量mが一定の物体に、外力Fをくわえると、それに「比例」した加速度aが発生する。
    - 一定の外力Fに対して、物体の質量mと、発生する加速度aは「反比例」する。
    - 加速度aを一定にたもつには、加える外力Fは、質量mに「比例」させなければならない。
  - 「万有引力の法則」、では、
    - あらゆる物体間には、それぞれの質量m₁、m₂に「比例」し、
    - 両者を隔てる距離rの2乗に「反比例」する力がはたらく。
    - このときの「比例係数」を万有引力定数とよぶ。
  - 「オームの法則」や「運動方程式」には、「比例定数」がないのは何故だろうか？
    それは、「比例定数」がなくても済むように、単位を決めた、からだ。
    - 1[V]の電位差に対して、1[A]の電流が流れるような抵抗の値を、1[Ω]とした。
    - 1[kg]の質量の物体に、1[m/s²]の加速度を生じるような力の大きさを、1[N]とした。
      このように歴史上の科学者の名前を採用している単位は、あとから（もちろん、その人の死後に）、定義された「合成単位」だ。
- 「物理法則」の「でき方」
- すべての「物理法則」の等式では、左辺と右辺の単位は等しくなければならない！
  - だから、「比例定数」にも、単位はある。
    - 上の「万有引力定数」Gならば、[N・m²/kg²]となるだろう。
  - 同じ単位のものの「比例関係」を表す係数なら、単位がないこともある。
    - 動摩擦力[N]と垂直抗力[N]の比だから、動摩擦係数μ'には単位がない。

｢微分｣・｢積分｣とは何か？

微分とは、『細かい割り算』のことである。タテ軸の変量を横軸の変量で微分すると、グラフの接線の傾きが得られる。タテ軸の変量が横軸の変量に『比例』しているという特別な場合は、別に微分と大げさに言わなくても、割り算すれば、その直線の傾きが得られる。	積分とは、『細かい掛け算の足し算』のことである。タテ軸の変量を横軸の変量である区間について定積分すると、グラフより下にある部分の面積が求められる。タテ軸の変量が定数であるという特別な場合には、別に積分と大げさに言わなくても、掛け算すれば長方形の面積が得られる。

『道のり』を『時間』で割れば、『速度』だ、と教えられた。でも、正確に言うとそうではなくて、『変位』を『時間』で微分したものが、『速度』だ。	『仕事』は、『力』かける『移動距離』だ、と教えられた。でも、正確に言うとそうではなくて、『力』を『変位』で積分したものが、『仕事』だ。

単位が『割り算』の形をしていたら、それは、『微分』だと思えばいい。

たとえば、加速度a[m/s²]は、速度v[m/s]を時間t[s]で『微分』したものである。
単位が『かけ算』の形をしていたら、それは、『積分』だと思えばいい。

たとえば、エネルギーW[J=N・m]は、力F[N]を変位x[m]で『積分』したものである。

【例1】地上から真上(y方向)に質量の物体m[kg]を初速度v₀[m]で投げ上げる。最高点に達する時間と、そのときの高さは?

運動方程式	-mg=ma
-------------	-----------------
加速度[m/s₂]	a=-g	順次tで積分すると次の式が得られる。不定積分には｢積分定数｣が表れるが、 t=0のときの速度、変位の値がこれにあたる。
速度[m/s]	v=-gt+v₀
変位[m]	y=-gt²+v₀t

｢最高点｣では、｢速度｣が0であることから、そのときのtを求めることができる。これを｢変位｣の式に代入すれば、そのときの高さがわかる。

【例2】ばね定数kのばねに外力を加え、自然長からx₀[m]まで引き伸ばした。このときばねに蓄えられた弾性力による位置エネルギーは?

ばねは、伸ばそうとすると縮み、縮めようとすると伸びる。外部から加えられた変形に対して、これを元に戻そうとする力を｢復元力｣という。
F=-kx (復元力に関するフックの法則:｢変形を加えると、変形の大きさxに比例し、かつ、これと反対向きの力が発生する)

では、この力｢弾性力｣とちょうどつりあうような外力kxを加えながら、ばねの伸びが0からx₀になるまで引っ張ったときに外力がする仕事は、[J]=[N・m]だから、｢力｣を｢変位｣で積分すればよい。

【例3】大気圧P₀[Pa]とつねにつりあいながら滑らかに動くピストンの付いた容器に気体を閉じ込め、加熱して、体積をV₁からV₂に変化させた。このとき、気体が外部にした仕事は?

[J]=[N・m]=[Pa・m³] だから、気体がした仕事は、｢圧力｣を｢体積｣で積分すればよい。

ここでは｢定積変化｣だから、｢圧力｣は定数P₀で、仕事は長方形の面積で表される。

【例4】「等速直線運動」、「等加速直線運動」のa-tグラフ、v-tグラフ、x-tグラフ、

等速直線運動等加速直線運動
加速度
[m/s²]
↑:t[s]で「微分」、↓:t[s]で「積分」
速度
[m/s]
↑:t[s]で「微分」、↓:t[s]で「積分」
変位
[m]
上のグラフの曲線下の面積が、下のグラフになり、
下のグラフの接線の傾きが、上のグラフになり、

「相対速度」は、ベクトルの｢引き算｣である。

A:観測者
B:観測対象
O:（絶対的な）座標原点

:観測者Aのもつ「絶対速度」

:観測対象Bのもつ「絶対速度」

:観測者Aから見た観測対象Bの「相対速度」

ベクトルの｢掛け算｣～「定数倍（スカラー倍）」、｢内積（スカラー積）｣、｢外積（ベクトル積）｣について

ベクトルの「掛け算」には、３通りある。

定数倍	スカラー×ベクトル＝ベクトル	ベクトルを定数倍すれば、その計算結果もベクトルである！ F=ma 運動方程式では、「質量」mは「スカラー」「加速度」aは「ベクトル」だから、「力」Fも「ベクトル」である！
内積	ベクトル×ベクトル＝スカラー	W=F・x 物体に「力」をくわえて動かすと、動いた方向の「力」の成分のみが、「仕事」をするこれは、「力」ベクトルと、移動方向の「変位」ベクトルの「内積」を計算していることになる！だから、「仕事」、「エネルギー」、「熱」は、「スカラー量」である！
外積	ベクトル×ベクトル＝ベクトル	高校では扱わないが、「力のモーメント」、「面積速度」、「フレミング左手の法則」などに、こっそり、用いられている。

	内積(スカラー積)	外積(ベクトル積)
定義	・ =\|\|\|\|cosθ ただし、θ=AOB	× =\|\|\|\|sinθ・ただし、θ=AOB は、OABを含む平面の｢法線方向の単位ベクトル｣で、からに向かって回転させたとき｢右ねじの進む方向｣と決める。
意味	｢仕事｣を定義するために考案された。物体に力を加え移動させるとき、移動方向の力の成分しか仕事をしない。 W=・=\|\|\|\|cosθ 仕事(エネルギー)はスカラー量である。 θが鈍角なら、仕事は負の値をとる。 θ=0,πで仕事の｢絶対値｣は最大である。	OA,OBを隣り合う2辺とする平行四辺形の面積を表すベクトル量(面積ベクトル)。垂直抗力NのAまわりモーメントは、 Nlsinθ=\|×\|
例	仕事	力のモーメント、面積速度(万有引力)^、右ねじの法則(電流が作る磁場)^、フレミングの左手の法則(磁場の中の電流が受ける力)^* (*は、物理Ⅱ)

高校の数学では、｢内積｣しか学習しない。でも、こんな風に物理では｢外積｣がこっそり持ち込まれている。｢数学｣と｢物理｣は切り離すことができない。特に19世紀に進展した｢線形代数学(ベクトル・行列)｣は、物理学的な現象を、数式で表現するために考案されたものだ。

運動方程式

｢運動方程式｣と｢つりあいの式｣
- 運動の法則
  1. 質点に外力が作用しないとき、その質点が静止していたときは静止し続けるが、速度を持っていたときは、その速度のまま等速直線運動を行う。(慣性の法則)
  2. 質点に外力が作用するとき、質点には、作用した外力と同じ方向で、その大きさに比例した加速度が発生する。(運動の法則)
  3. 2個の質点の間に力が作用するとき、どちらを基準に観測するかによって、大きさが同じで向きが反対の2つの力が観測される。一方を｢作用｣と呼び他方を｢反作用｣と呼ぶ。(作用・反作用の法則)
    ｢質点｣というのは、｢質量だけあって、大きさのない点｣という意味。｢回転運動｣を処理できない高校の物理では、物体はすべて｢質点｣として扱われる。
  ⅰとⅱは実は同じことを言っている。質点に作用する外力の合力を、発生する加速度をとすれば、
  =m
  これは｢運動方程式｣だが、この式は、次のように｢読む｣ことができる。
  1. が0ならも0である。つまり、｢外力の合力が0ベクトルならば、加速度は発生しない」、これが｢慣性の法則｣であり、 =0 を｢つりあいの式｣という。
  2. が0ベクトルでないなら、はの定数倍である。つまり、｢外力の大きさに比例した、同じ方向の加速度が発生する｣、これが｢運動の法則｣である。
  力は｢ベクトル量｣だから、2つの方向に分解できる。加速度の方向と、それに直交する方向に分解すると、一方が｢運動方程式｣、他方が｢つりあいの式｣になって便利だ。
- 運動方程式の立て方
  - 運動方程式は、原則として、各物体ごとに立てる。
    2個以上の物体をまとめて1個の｢系(システム)｣として扱うこともできるが、このときは、物体相互間に働く力は、｢外力｣ではなく｢内力｣になる。
  - ｢力｣の発見の仕方。
    1. 力は原則として、直接触れ合ったものからしか作用しない(近接作用の法則)。
    2. 離れていても作用する、ほぼ唯一の例外が、重力(遠隔作用の法則)。
    3. ｢作用｣があればかならず｢反作用｣がある。
    現代物理学では｢遠隔作用｣の存在は否定されている。でも、高校で扱う物理学は、｢19世紀｣までのものだから問題ない。
  - ｢連立方程式｣の理論。おおざっぱに言うと、｢未知数の個数と条件式の個数が等しいとき、連立方程式は、解ける｣。だから、求めたい未知数の数だけ、条件式を｢探せば｣よい。
- 【注意】
  運動方程式には書き方の「流儀」があって、現在の高校の教科書では、ma=Fとかかれる。
  「加速度」というものを「定義」する式だから、左辺に置くべきだ、という論拠と思われ、もちろん傾聴に値するが、ここでは、上に述べた、
  - つりあいの式=0は、
  - 運動方程式=mの「左辺」（外力の合力）が、たまたまゼロになった特別の場合に過ぎず、
  本質的に同じ式なのだ！、ということを強調したいので、あえて、F=ma
  - 左辺に「外力」の「合力」、
  - 右辺に、「質量」×「加速度」
  を、採用させていただく。
- 「運動方程式」を「解く」ということ、について、もう少し。
  - 「加速度」aの単位は[m/s²]、つまり、
    「加速度」a[m/s²]は、「変位」x[m]を「時間」t[s]で、「２階微分」したものだ！、と言える。これを難しく書くと、
  - ところで、「運動方程式」が「解けた」というのは、その運動についてのすべての「情報」が得られた、ということでなければならない筈だから、
    問題にしている「質点」が「時刻」tにおいて、
    - どこにいるか？、・・・、すなわち「変位」x、
    - どう動いているか？、・・・、すなわち「速度」v、
    が、いずれもtの関数として、tに適当な値を代入すれば、「いつ」のことでもわかるような形で！、・・・、表わせていなければならない。
  - そんなことが「できる」のは、いったいどんな場合なのか？
    上のような式は「微分方程式」と呼ばれ、それが解かれるには「積分」ができなければならない。
    どんな関数でも「積分」できるなどとは思わないように！
    私たちは、ものすごくわずかなごく限られた簡単なものについてだけ、その方法を知っているのであって、「世の中」には、解けない「積分」は山ほどあるのだ。
  - 実にあっさりした話で、それは、
    1. Fが0のとき。0を一回積分したら定数、もう一回積分したら1次関数。これが「等速直線運動」。
    2. Fが定数のとき。0を一回積分したら1次関数、もう一回積分したら2次関数。これが「等加速直線運動」。
    私たちに「できる」のは、これだけで、
  - 実は、もうひとつだけ、知らず知らず、「解けて」いるものがあった。
    1. Fが「変位」xに比例して、かつ、方向が反対、
    だったらどうだろう？これが「フックの法則」で、
    
    tの関数xを2階微分すると、もとの関数に比例して、なおかつ、符号が逆向くのは、どんな関数だろう？
    と、思い浮かべることで、これが、「三角関数」
    x=Asin(ωt+φ)
    といった式で表現できる「単振動」であることが、「わかる」のだ。
- 【練習1】下の図で、Aの質量M、Bの質量m、糸に質量はなく、滑車に摩擦はなく、台が水平面となす角θ、台とAの間の動摩擦係数μ'、Aは斜面をすべりおりた、とすると・・・?
  - 作用している力をすべて列挙する。｢重力｣以外は、直接触れ合っているものからしか作用しない。直接触れ合っているのは、Aでは台と糸、Bでは糸だけ。
    
    接触面からその面の｢法線｣方向に受ける力を｢垂直抗力｣N、
    糸のようなものから受ける引張り力を｢張力｣T、
    接触面で、運動を妨げる方向に作用する力を｢動摩擦力｣f
  - 運動方程式は、各物体ごとにたてる。
    
    Aではさまざまな方向に力が作用しているから、これらを直交する2方向に分解する。
    加速度の発生する方向(斜面に平行な方向)と、それに垂直な方向に分解する。
    
    Bでは鉛直方向にしか力が作用していないから、分解の必要はない。
    1. Aについて(斜面に垂直な方向・つりあいの式)
      N-Mgcosθ=0・・・(1)
    2. Aについて(斜面に平行な方向・運動方程式)
      Mgsinθ-f-T=Ma・・・(2)
    3. Bについて(鉛直方向・運動方程式)
      T-mg=ma・・・(3)
  - ｢未知数｣はいくつあるだろうか？
    問題で｢与えられた文字｣は、M,m,θ,μ'、それから｢重力加速度｣gは定数。
    これ以外に持ち込んだ文字は、すべて｢未知数｣だろうから、N,f,T,a、4個の未知数なのに条件式が3個しかない。何が足りないのか?
  - 動摩擦力の性質：動摩擦力は、垂直抗力に比例する。その比例係数を｢動摩擦係数｣と呼ぶ。
    f=μ'N・・・(4)
  - こうして、未知数の数と条件式の数が一致した。連立方程式は、解ける。解ける、ということは、この運動についてのすべてがわかる、ということだ。たとえば、
    
    (ア)物体Bが高さh上昇するのに必要な時間。
    (イ)その間にAと台との間の摩擦によって失われたエネルギー。
    (ウ)・・・
    というような問に対しても、すべて、答えられる、ということだ。
- 【練習2】「斜方投射」
  - 座標原点(0,0))から、水平面となす角θに初速度v₀[m/s]で質量m[kg]の物体を投げ上げる。
    運動方程式(y方向のみ)
    
    -mg=ma_y
    
    x方向 y方向
    
    a_x=0
    v_x=v₀cosθ
    x=v₀tcosθ
    
    a_y=-g
    v_y=-gt+v₀sinθ
    y=-gt²+v₀tsinθ
  - 最高点に到達する時刻、その場所の座標は？
    「最高点」では、yが最大（極大）だから、それを1階微分したv_y=0のはずだ。
- 【練習3】「水平投射」
  - 点(0,h))から、水平方向に初速度v₀[m/s]で質量m[kg]の物体を投げる。
    運動方程式(y方向のみ)
    
    -mg=ma_y
    
    x方向 y方向
    
    a_x=0
    v_x=v₀
    x=v₀t
    
    a_y=-g
    v_y=-gt
    y=-gt²+h
  - 着地する時刻、その場所、そのときの速度ベクトルの各成分は？
    「着地」するのだからyが0

エネルギー保存則

自然界をつかさどる、２大法則～熱力学第１法則・熱力学第２法則
- 熱力学第１法則(エネルギー保存則)：｢閉鎖系｣ではエネルギーは保存される。
- 熱力学第２法則(エントロピー増大則)：｢開放系｣ではエネルギーは散逸し、熱として逃げたエネルギーを再びすべて仕事に変えることは、絶対に不可能である。
｢閉鎖系｣とは外部とのエネルギーのやり取りのない世界、｢開放系｣とは外部とのエネルギーのやり取りがある世界。斜面を物体が滑り降りる場合を考える。摩擦がなければエネルギーは保存される。でも、実際には摩擦は必ず存在し、エネルギーは熱となって逃げていく。この熱は周りの空気を温め(空気を構成する分子の運動エネルギーに変えられ)、｢系｣から離れていく。

では、｢エネルギー｣とは何か?語源からみるとそれは｢力の源｣みたいな意味になる。｢相手にダメージを与えることのできる潜在的な能力｣と考えるとよい。

高いところにある物体は、それだけで、エネルギーを持っている、といえる。
その物体が落ちてくれば、下にあるものを壊すことができるからだ。
これを｢重力による位置エネルギー｣という。
速度を持っている物体は、それだけで、エネルギーを持っている、といえる。
その物体がぶつかれば、そこにあるものを壊すことができるからだ。
これを｢運動エネルギー｣という。
縮められたばねは、それだけで、エネルギーを持っている、といえる。
そのばねの先におもりをつけて弾き飛ばせば、その先にあるものを壊すことができるからだ。
これを｢弾性力による位置エネルギー(弾性エネルギー)｣という。

では、これらを求めてみよう。
- 重力による位置エネルギー
  
  基準面からの高さh[m]にある質量m[kg]の物体はmgh[J]のエネルギーをもつ。
  これは、基準面から、h[m]の高さまで、重力mg[N]につりあう外力で持ち上げたとき、外力が物体に対してなした仕事に等しい。
- 運動エネルギー
  
  速度v[m/s]で運動する質量m[kg]の物体は、mv²[J]のエネルギーをもつ。
  これは、運動している物体に対して外力を加え、これを静止させるまでに外力がなした仕事に等しい。
  
  速度v₀[m/s]で運動する物体に、速度の方向と逆向きに大きさFの一定の外力を加えたとすると、運動方程式は-F=ma[N]であるから、加速度、速度、変位は以下のように書ける。
  
  物体を静止させるまでにかかる時間は、t=t₀でv=0とすると、
  
  物体を静止させるまでに要する距離をsとすると、
  
  したがって、物体を静止させるまでに外力のなした仕事は、
- 弾性力による位置エネルギー
  
  自然長からx[m]だけ、伸ばされ、または縮められたばねには、kx²[J]のエネルギーが蓄えられる。
  
  ばねは、伸ばそうとすると縮み、縮めようとすると伸びる。外部から加えられた変形に対して、これを元に戻そうとする力を｢復元力｣という。
  F=-kx (復元力に関するフックの法則:｢変形を加えると、変形の大きさxに比例し、かつ、これと反対向きの力が発生する)
  
  では、この力｢弾性力｣とちょうどつりあうような外力kxを加えながら、ばねの伸びが0からx₀になるまで引っ張ったときに外力がする仕事は、

｢エネルギー保存則｣を用いなければならない理由

以下の２つの例を比較してみよう。どちらも摩擦のない斜面を物体が滑り降りる。摩擦による熱の発生がないから、エネルギーは保存される、としてよい。違いは、【例1】では、斜面が直線でないため、滑り降りる間時々刻々垂直抗力の向きが変わる。これにともなって加速度の大きさ、向きも時々刻々変動する。このような複雑な運動を｢運動方程式｣で解くことはできない。

これに対して【例2】では、物体に作用する重力、垂直抗力はつねに一定だから、加速度も一定、｢等加速直線運動｣として、任意の時刻の速度が計算できる。

【例1】は｢エネルギー保存則｣でないと、解けない。【例2】は、｢エネルギー保存則｣でなくても、解ける。

摩擦のない斜面を質量m[kg]の物体が滑り降りる。高さh[m]の地点から静かに物体を滑らせたとき、地表面に達したときの速度を求めよ。
【例1】	【例2】

｢保存則｣というのは、ある事柄が｢起こる前｣と｢起こってしまった後｣の2つの時点で、｢何か変化していないもの｣に着目して、そこから｢変化した量｣を逆算する手法である。だから、そこには時間の観念が抜け落ちてしまっている。【例1】で、物体が地表面に｢いつ｣到達するかは、｢エネルギー保存則｣からは決して計算できない!

力のモーメント(剛体の力学)

	質点の力学	剛体の力学
静力学	つりあいの式	モーメントつりあいの式
動力学	運動方程式	(回転運動の運動方程式)

力学の｢体系｣は上のようになっている。｢質点｣とは｢質量はあるが大きさはない｣点のことだ。｢剛体｣は｢大きさのある、しかし変形しないかたまり｣のことだ。大きさのある物体が運動すると、どうしても直進運動以外に回転運動をしてしまう。回転運動を運動方程式として扱うのは、数学的に難しい技術が必要になるので、高校の物理では扱わない。

だから、｢剛体の静力学｣では、

物体が直進運動しないこと：｢力のつりあいの式｣
物体が、どこを中心にしてでも、決して回転運動しないこと：｢モーメントつりあいの式｣

これらの｢連立方程式｣を解くことになる。
どこを中心にしてでも、決して回転運動しないのだから、モーメントの｢中心｣はどこにとってもいい。力の｢作用線｣が通っている点を｢中心｣に選べば、その力のモーメントは0になるから、計算がらくだ。

【練習】質量m[kg]の均質な棒が、壁面に立てかけられている。床との間には摩擦があり、静止摩擦係数はμである。壁面との間には摩擦がない。棒が滑ってしまわない最小の傾斜角θを求めよ。

鉛直方向・つりあいの式	mg-N₂=0
水平方向・つりあいの式	f-N₁=0
A点まわりのモーメントつりあいの式	mg・lcosθ-N₁lsinθ=0
最大静止摩擦力の式	fμN₂

浮力

液体中にある物体には、その物体が押しのけた液体の重さにあたる｢浮力｣が作用する(アルキメデスの原理)。

これを、以下の例で確認しよう。断面積S[m²]、高さd[m]、密度ρ[kg/m³]の円柱形の物体が、密度ρ₀[kg/m³]の液体の中に浸かっている。物体の上面がちょうど深さh[m]のところにあるとしよう。大気圧はP₀[Pa=N/m₃]とする。

この物体に作用する力について、鉛直方向のつりあいの式を立てる。

ところで、｢圧力｣とはなんだろうか?単位[Pa=N/m³]からは、｢単位面積当たりに作用する力の大きさ｣と読める。
｢気圧｣とは、私達の上にのっかている大気圏の果てまでつながった｢空気の柱｣の重さを、その作用する面積で割ったものだ。地球の周りの大気圏の厚さ、高さにもとづく密度の変化のパターンは、地球上のどこでもほぼ同じだろうから、地表面(平均海水面)での大気圧はほぼ1013hPaという定数となっている。

液体や気体のような粘性の小さい流体では、物体の陰にも回りこんで、表面は平らになるから、障害物のあるなしに関わらず、その圧力はその面より上にある流体の層の厚さだけで決まる。
水面からh[m]の深さでの｢水圧｣P₁[Pa]を計算しよう。
面積S[m²]の物体の上にのっかっている水の重さ(重力)はρ₀Shg[N]だから、圧力はこれを面積で割って、P₁=ρ₀hg[Pa]、
同様に、水面から(h+d)[m]の深さでの｢水圧｣P₂[Pa]は、P₂=ρ₀(h+d)g[Pa]、

物体には、鉛直下向きに重力が作用する。	ρSdg
物体の上面には、鉛直下向きに、大気圧および水圧による力がかかる。	(P₀+P₁)×S=P₀S+ρ₀Shg
物体の下面には、鉛直上向きに、大気圧および水圧による力がかかる。	(P₀+P₂)×S=P₀S+ρ₀S(h+d)g
物体が沈んでしまわないために、鉛直上向きに、外力Fを加えて支えたとする。	F

つりあいの式は、

ρSdg+P₀S+ρ₀Shg-P₀S-ρ₀S(h+d)g-F=0

まとめると、

ρSdg-ρ₀Sdg-F=0

この式の第2項ρ₀Sdg[N]が｢浮力｣の正体である。まさに｢押しのけた液体の重さ｣となっているだろう？

ρ＞ρ₀ならば、F＞0であり、手を離せば物体は沈む。
ρ＜ρ₀ならば、F＜0であり、手を離せば物体は浮かび上がる。

運動量保存則

「運動量保存則」は、次の2つの事柄から導かれる。

「運動量保存則」は、

「運動方程式（積分形）」と、
「作用・反作用の法則」

から、できている。したがって、
「作用・反作用」の関係にたつ物体同士の間では、つねに、成り立つ。

運動量と力積(運動方程式の「積分形」)

運動方程式から、外力を受けると加速度が発生する。微小時間tの間に、速度がv₁からv₂に変化したとすれば、運動方程式の両辺にtをかけて（tで積分して）以下の式が得られる。左辺をFtを「力積」と呼ぶ。質量と速度の積mvを「運動量」と定義すると、この式は、「『運動量』の変化量はその間に受けた『力積』に等しい」と読める。「運動方程式の積分形」とも言われる。
作用・反作用の法則

2個の質点A,Bが相互に力を及ぼしあっているとき、「AがBに及ぼす力」と「BがAに及ぼす力」とは、「大きさ」が等しく、「方向」が逆の力である。これらを相互に「作用・反作用」の関係にあるという。
運動量保存則

質量m₁,m₂[kg]の2物体がf[N]の力を相互に及ぼしあい、時間t[s]後に速度がそれぞれ、v₁[m/s]からv'₁[m/s]、v₂[m/s]からv'₂[m/s]に変化したとしよう。

それぞれの物体についての、「運動量変化＝力積」の式（運動方程式の積分形）をたてる。
- m₁v'₁-m₁v₁=-ft・・・(1)
- m₂v'₂-m₂v₂=ft・・・(2)
(1)式の右辺がマイナスなのは、右向きに座標軸をとっているからである。

(1)(2)の辺辺を加えれば、「作用・反作用の法則」により、右辺が消えるから、

これはm₁,m₂2個の物体だけでできている「系」を考えたとき、力を及ぼしあう前後で、運動量の和が変化していないことを表している。これを「運動量保存則」という。

このように「運動量保存則」は「運動量変化＝力積（運動方程式の積分形）」と「作用・反作用の法則」からできている。したがって、作用・反作用の関係に立つような力がはたらいている場合には一般的に成立するはずだ。

「運動量保存則」が成立しないように見える場合は、一方が、「地球の表面」、「動かない壁や床」のように、力を受けてもなんらの速度変化を受けない、すなわち、他方の物体に対して質量が無限に大きいと仮定している場合である。

また、｢運動量保存則｣が、もっぱら｢衝突｣のような現象に対して用いられるのは、時間的に激しく変化する力(｢撃力｣という)が作用する場合、瞬間瞬間の力の大きさfもまた、衝突の持続する｢時間｣tも、それぞれ単独で知ることは困難だが、衝突が始まる瞬間よりも十分に前と後との2時点の｢運動量｣の差を「力積」f・tとして把握することができるからだ。

単振動

「復元力」に関する「フックの法則」

「力」を加えられた質点の「変位」の大きさが、加えられた力の大きさに比例し、かつ、その方向が逆であるような力を「復元力」と呼ぶ。
ばねは、「自然長」を基準として、そこから伸ばせば「伸び」に比例した力で縮もうとし、縮めれば「縮み」に比例した力で伸びようとする復元力の一例である。
復元力の性質を数式で表すと、以下のようになる。これが「フックの法則」である。ここにkは「弾性係数」、ばねの場合なら「ばね定数」と呼ばれる。
「復元力」を受ける質点の運動方程式

運動方程式

と「フックの法則」を組み合わせると、

となり、これは、時間tを変数とする関数xと、その2階微分との関係式であり、しかも両者が比例関係にあることを示している。原点を通る直線関係、すなわち正比例の関係にあることを「線形」と呼び、この形式の微分方程式は「線形2階常微分方程式」と呼ばれる。

2回微分すればもとの関数と比例関係に立ち、なおかつその符号が逆になるような関数、といえば、sinまたはcosであろう。

こうして、上の微分方程式の「解」の一つが得られた。現に、フックの法則を満たす復元力を受けて運動する質点はこの式で表される運動をおこなう。これを「単振動」と呼ぶ。

上の式は、「積分」の過程でどうしても出てこざるを得ない3個の「定数」A,ω,φを含んでいる。
これらのうち二つを決定するのは、それぞれ問題になっている事象について与えられた「条件」によらざるを得ない。
時刻t=0のとき、x=Aの地点までおもりを移動し、手を放す。
という設定で考えよう。時刻t=0のときの条件であるから、このようなものを「初期条件」と呼ぶ。

「三角関数」というのは、sin、cosと別の名前がつけてあるが、相互にπ/2の平行移動で重なる、「同じ」関数なのである。
「時刻」t=0のときに「変位」が「最大」、「0」、「最小」のいずれであるかによって、事実上φなる定数の選び方は、4とおりしかない。
ここでは、時刻t=0のとき「最大」であるようだから、「cos型」を選ぶ。

sin型(φ=0)
cos型(φ=π/2)

-sin型(φ=π)
-cos型(φ=-π/2)

三角関数相互の「不思議」な性質

というわけで、AはAのままでよく、φ=π/2、つまりsinの代わりにcosとしておけばよい。

x=Acosωt
- x:変位、原点からの距離[m]
- A:振幅[m]
- ω:角速度、または角振動数、もしくは角周波数[(rad)/s]
- t:時刻[s]
- φ:初期位相[(rad)]、時刻t=0における変位を示す角度。
「角振動数」ω、周期Tの求め方

ところが、ω（角振動数）については、「初期条件」にかかわらず、「運動方程式」自体から決まる。
どれでも同じだから、φ=0の場合について考える。2階微分すると、

v:速度[m/s]
a:加速度[m/s²]

当然だが、「『加速度』が『変位』に比例し符号が逆」、であることが改めて確認できる。

もとの運動方程式と比較すると、

k=mω²

「周期」はωt=2πとなるときの時刻t=T[s]、振動数f[1/s=Hz]はその逆数だから、
単振動を生じる条件

自然界には「単振動」と見なせる現象がたくさんある。それらを一般化すると、
単振動を生じる条件

「時間」による2階微分が、
もとの関数に比例し、
符号が逆である

「振動の中心」が「原点」と異なる場合（「線形化」の問題）。

【練習1】水平面と角度θをなす斜面上に、自然長 l₀ m、ばね定数 k のばねが、図のように固定されているとする。
斜面に沿って下向きにx軸をとり、ばねが固定されている点を原点とする。

ばねの先端に質量 m kg のおもりを取り付けて静かに手を放せば、おもりはある地点で静止する。この状態からさらにx軸方向におもりを引いてばねを引き伸ばし、 x = l 地点で手を放せば、おもりは運動を始めるだろう。
x = l 地点で手を放した瞬間を t = 0 として、おもりの位置 x を t の関数として表現したい。
ただし、おもりと斜面との間には摩擦はないものとする。

おもりをつけて手を離したとき、静止した位置(つりあいの位置)を、x=l₀+x₀とする。
斜面に沿った方向(x軸方向)つりあいの式
mgsinθ - kx₀ = 0 ・・・(1)
位置 x における運動方程式
mgsinθ - k(x - l₀) = ma

変形すると、

(1)より
・・・(2)

ここで、
X = x - ( l₀ + x₀ )
とおきかえると、
- kX = ma
変位Xを2階微分したもの(加速度)が、変位に比例して、符号は逆向き、という｢単振動｣の条件を満たす。

₀

時刻t = 0で、｢引き伸ばし｣て、手を放しているから、このとき変位xは最大。
したがって、単振動を表す式は、t = 0で最大となる「cos型」である。
振幅Aは、振動の中心x = l₀ + x₀ から、もっとも引き伸ばしたx = lまでの距離であるから、
A = l - ( l₀ + x₀ )

ここまでで、
x - ( l₀ + x₀ ) = { l - ( l₀ + x₀ ) } cosωt

すなわち
x = { l - ( l₀ + x₀ ) } cosωt + ( l₀ + x₀ )
あとは、｢角振動数｣ωを決めればよい。
このxをtで2階微分すると、
v = - ω { l - ( l₀ + x₀ ) } sinωt
a = - ω² { l - ( l₀ + x₀ ) } cosωt
すなわち
a = - ω² { x - ( l₀ + x₀ )}
運動方程式(2)と比較すると、

[(rad)/s]
したがって、振動の周期T [s]は、
[s]

以上から、このおもりの運動を表す式(変位xを時間tの関数で表した式)は、

近似的に「単振動」と見なせる運動（「単振子」を例として）

同一鉛直平面内

「変位」の方向が、場所によって異なるから、厳密には「単振動」ではないが、
振れる角度が十分に小さいときは、近似的に、一直線上の運動と見なすことができる。

【練習2】長さl[m]の軽い糸を天井の一点に固定し、他端に質量m[kg]のおもりをつりさげる。
おもりが鉛直方向からθ₀をなす地点まで、糸がたるまないように移動し、静かに手を放す。

円弧の接線方向、鉛直線から離れる方向にx軸、
円弧の法線方向、糸の固定点に向かう方向にy軸、をとる。
手を放した瞬間を時刻t=0として、その後の時刻tにおける、
- y軸方向・「つりあいの式」
- x軸方向・「運動方程式」
をたてる。

時刻t=0

時刻t

y軸方向・「つりあいの式」
x軸方向・「運動方程式」
時刻t=0でθ=θ₀である(初期条件)から、このときの変位xをA[m]、すなわち、
A=lθ₀
とおくと、時刻t=0で振れ幅が正で最大、であるからやはり「cos型」、したがって、
x=Acosωt・・・(3)
「角振動数」ωを求めるには、(3)を2階微分すればよい！
v=-ωAsinωt
a=-ω²Acosωt
すなわち、
a=-ω²x
これを、(2'')と比較すれば、角振動数ω[(rad)/s=1/s]、周期T[s]は、
変位xを表す式は、
・・・(3')

「弧度法」の定義

の意味

十分小さければ

「弧」の長さ・・・2rθ
「弦」の長さ・・・2rsinθ
を、同じと見なしてよい！

等速円運動

速度の大きさ

方向

ベクトル量

微小な時間

tの経過前と後とで、速度ベクトルが、

(t)から、

(t+

t)へと変化したとする。

t秒経過｢後｣のベクトル

(t+

t) から、経過｢前｣のベクトル

(t) を、｢引き算｣したベクトルの「大きさ」が、
この時間内での｢速さ｣の変化量であるから、

a

t = |

(t+

t) -

(t) |

これは、右図の扇型、中心角ω

t、半径v=|

|の｢弦｣の長さだが、十分に短い時間

tに対しては、｢弧｣の長さで近似してよい！

「弧度法」の定義

の意味

十分小さければ

「弧」の長さ・・・2rθ
「弦」の長さ・・・2rsinθ
を、同じと見なしてよい！

したがって、
a

vω

t
すなわち、
a = vω・・・(1)

次に、右図において、「速度ベクトル」と「加速度ベクトル」のなす角は、
二等辺三角形の等しい二つの底角の一方だから、
(π-ωt)/2
のはずであるが、ここで、tの十分小さな極限を考えれば、π/2、すなわち、直角、となるだろう。
「速度ベクトル」は円の接線方向を向くから、したがって「加速度ベクトル」は、円の中心に向かう、ことがわかった！
これを｢向心加速度｣と呼び、このような加速度を生みだす｢力｣を、｢向心力｣と呼ぶ。
ところで、「角速度」ωと、｢速さ(速度ベクトルの大きさ)｣vの関係は？

t秒間の接線方向の移動距離が、「弧」の長さに等しいことから、
vt=rωt
すなわち、
v=rω・・・(2)
(1)、(2)から、等速円運動の加速度の大きさは、次の3通りの表現ができることが分かった。

等速円運動の加速度
鉛直面内の円運動
- 中心を向く方向(法線方向)、については、
  ｢向心加速度｣についての式・・・(1)
  を用いることができる。
  
  しかし、
- 接線方向にも加速度は発生するから、(1)の式は、ある｢瞬間｣にしか適用できない。
  その｢瞬間｣の速度の大きさは、
  エネルギー保存則・・・(2)
  によって求めるしかない。
  通常、力を直交する2方向に分解し、
  - 一方は、｢加速度｣が発生する｢運動方程式｣、
  - 他方は、｢加速度｣が発生しない｢つりあいの式｣
  これら2式を｢連立｣して未知数の値を得ることができる。
  ここでは、｢法線方向｣、｢接線方向｣に分解しておきながら、｢接線方向｣の加速度成分を無視することになるから、当然条件式の数が足りない。
  そこで、やむなく、｢エネルギー保存則｣をもちこむ、という異常な処理の仕方になる。

【練習】下図のような遊園地のジェットコースターについて考える。
高さH [m]のA地点から、初速度0 [m/s]ですべり降り、中央部の半径R [m]の円軌道を通過する。

レールとジェットコースターとの間には摩擦はまったくないと仮定しよう。また、実際の遊園地ではジェットコースターはレールから決して離れないように安全設計されているであろうが、ここでは、ジェットコースターがレールから受ける垂直効力を失うと軌道から外れて落下してしまう、と仮定する。

また、中央部の円は実際は一番下のB地点で少しずれなければ通れないから、完全な円軌道ではないのだが、これも無視し、ジェットコースターが進行方向に対して左右方向に軌道をずれて脱落することもないとする。

ジェットコースターの質量はm [kg]、重力加速度はg [m/s²]とする。

最下点Dから反時計回りにθ進んだ点Pにおけるジェットコースターの速さvを求めよ。
P点においてジェットコースターが軌道から受ける垂直抗力Nを求めよ。
ジェットコースターが軌道から外れることなく円軌道を通過できるために、HとRが満たすべき関係を求めよ。

エネルギー保存則から、
・・・(1)
法線方向について、運動方程式
・・・(2)
(1)(2)からvを消去して、
0θ2π の範囲では、N は θ=π のとき最小値をとる。
このとき、N0であればよいから、
HR

万有引力

万有引力の法則

質量m₁,m₂[kg]の質点が距離r[m]離れて存在しているとき、両者に作用する力の大きさ[N]は次式で表される。

Gは、「万有引力定数」である。
静電気力、磁力に関する「クーロンの法則」と同様に、距離の自乗に反比例することから、これらの法則を「逆二乗法則」と呼ぶ。
重力加速度との関係

地表近くで質量m[kg]の質点に作用する地球との万有引力は、その「重力」に等しいから、地球の半径をR[m]とすれば、
万有引力による「位置エネルギー」[J]

「逆二乗法則」においては、距離0[m]の点を基準とすると、そこで作用する「力」が無限大になってしまうから何かと不都合なので、逆に「力」が0となる、「無限遠点」を「位置エネルギー」の基準とする。

すなわち、「万有引力」による「位置エネルギー」とは、
- 質量m[kg]の質点を、質量M[kg]の「地球」から見て、
  「無限遠点」を出発して、距離r[m]の点まで、
- 「万有引力」とちょうどつりあう｢外力｣をくわえて運んでくるのに、
  「外力」がなすべき「仕事」である。
「万有引力」は文字通り「引力」であるから、「万有引力」自体が「正」の「仕事」をすることによって質点を、無限遠点から距離r[m]まで運んでくることが可能である。従ってここで「外力」はなんら「仕事」をせず、むしろ「万有引力」に「抗して」、質点を、無限遠点から距離r[m]まで運んでくるには、「負」の「仕事」をしたことになる。

ケプラーの法則

第1法則：惑星は「楕円軌道」を描く。
第2法則：惑星が単位時間に「掃く」面積（面積速度）は、一定である。
第3法則：惑星の「公転周期」の2乗は、楕円軌道の「半長軸」の3乗に比例する。

力の「作用線」が、常に同一の一点（中心）を通っているような「力」を「中心力」と呼び、「中心力」のみを外力とするような質点の運動においては、かならず、「面積速度」が一定になることが数学的に証明できる。
「中心力」のみを外力とするような質点の運動方程式を解くと、その軌道は「円錐曲線（楕円、放物線、双曲線）」になることも知られている。
そして、その運動方程式から、必然的に「第3法則」を導くことができる。
つまり、｢ケプラーの第1法則・第2法則・第3法則｣は、今日の目から見ると、数学的には｢同値｣である。

「第3法則」について：高校で学ぶ数学の内容では、楕円軌道での｢周期｣の計算はできないから、｢円軌道｣の場合について｢第3法則｣が成立していることを確認する。

｢第2法則｣について：

｢面積速度｣は、中心から見たその点の「位置ベクトル」と、｢速度ベクトル｣の｢外積｣で定義される。

その大きさは、｢位置ベクトル｣と｢速度ベクトル｣を2辺とする三角形の面積である。
楕円では、接線と、その接点と｢焦点｣を結ぶ点が直交したりしないから、簡単には計算できない。

楕円の｢長軸｣と｢速度ベクトル｣が直交するのは、ただ2点のみ、
- ｢近日点｣A：中心に最も近づいた点。
- ｢遠日点｣B：中心から最も離れた点。
高校の物理では、この2点についてのみ、｢第2法則｣を利用できる。

｢第1宇宙速度｣と｢第2宇宙速度｣

地球表面から人工衛星を打ち上げる際、その初速度のまま地表に最も近い円軌道を描きうる初速度を「第1宇宙速度」という。地上に落下することなく、回転運動を続けることのできる最小の速度である。
反対に、一定以上の大きさの初速度で打ち上げると、二度と地球に戻ってこれなくなってしまう。これを「第2宇宙速度」という。
この二つの速度の間の初速度で打ち上げると、人工衛星は、打ち上げた地点を「近日点」とする「楕円軌道」を描く。

打ち上げる初速度	v＜v₁	第1 宇宙速度 v₁	v₁＜v＜v₂	第2 宇宙速度 v₂	v＞v₂
軌道の形	落下	円	楕円	脱出（放物線）	脱出（双曲線）

｢第1宇宙速度｣：地球との｢万有引力｣を向心力とし、ちょうど地球の半径に等しい長さを半径とする｢等速円運動｣を行うような、速度を求めればよい。
｢第2宇宙速度｣：｢二度と戻ってこれない｣のは、｢無限遠点｣に行ってしまったからだ！
発射する時点と、｢無限遠点｣に「到達」した時点とで、｢エネルギー保存則｣を考える。
- 運動エネルギー：｢無限遠点｣の｢直前｣まで運動していて、ちょうど｢無限遠点｣でゼロになった！、と考える。
- 位置エネルギー：定義上、｢無限遠点｣では、ゼロである！

【参考】：｢円錐曲線｣と｢離心率｣

2次曲線｢円・楕円・放物線・双曲線｣はいずれも、円錐を、底面と様々な角度をなす平面で切った断面で表現できるので、｢円錐曲線｣と呼ばれる。

原点O、直線l:x=-1、点Pからlにおろした垂線の足をHとする。
e=PO/PH
を｢離心率｣と呼び、この値が一定になるようなPの軌跡を求めると、
すべて、極方程式、

であらわされる、3種類の曲線が得られる

e＞1のとき：双曲線
e=1のとき：放物線
e＜1のとき：楕円

【練習】地球の表面から、地表に対して平行な方向に、ある初速度を与えてロケットを発射し、地球の周りを回転する人工衛星とすることを考える。地球は表面が滑らかな球体であると考え、ロケットが障害物に衝突する、などということは考慮しないことにする。
地球の半径を R [m] , 地球の質量を M [kg] , 万有引力定数を G [N・m²/kg²] , ロケットの質量を m [kg] とする。
1. 初速度を、 v₁ [m/s] としたとき、ロケットは地球の表面をすれすれに飛ぶ、円軌道を描いた。つまり、地球の半径とちょうど同じ半径をもつ円軌道で飛んだ、とする。
  - v₁ [m/s] を求めよ。
  - また、｢ケプラーの第3法則｣は、
    ｢惑星の公転周期の2乗は、楕円軌道の半長軸の3乗に比例する｣
    と、述べている。｢円｣は長軸と短軸がともに直径に等しい｢特別な楕円｣と考えれば、ここでの円軌道にもこの法則が適用できるはずである。
    ここで求めた円軌道について、｢ケプラーの第3法則｣が成立していることを、確認せよ。
2. 次に、初速度を、 v₂ [m/s] としたとき、ロケットは、地球の中心を一方の焦点とし、長軸 (1+a)R [m] (ただし、a＞1) の楕円軌道を描いた。
  ロケットを発射した地点をA点とすると、この点は、楕円軌道上、地球に最も近い点である。A点に対して、焦点をはさんで反対側の長軸の端をB点とすると、この点は、反対に、楕円軌道上、地球から最も遠い点となる。
  
  B点におけるロケットの速度を V₂ [m/s] として、
  1. ｢ケプラーの第2法則｣、すなわち、｢面積速度一定の法則｣
  2. 力学的エネルギー保存則
  を、A点B点の2地点について適用することにより、 v₂ [m/s] , V₂ [m/s] を計算せよ。。
3. 最後に、初速度を、 v₃ [m/s] としたとき、ロケットは、二度と地球に帰ってこなくなった。
  このようなことが起こる速度 v₃ [m/s] の最小値を求めたい。
1. 万有引力を｢向心力｣とする等速円運動の運動方程式
  ・・・(1)
  ここから、
  
  周期は、
  
  したがって、
  ・・・(2)
  公転周期の2乗が、半径の3乗に比例することがわかった。、
2. A点、B点における｢面積速度一定の法則｣から、
  ・・・(3)
  A点、B点における｢力学的エネルギー保存則｣から、
  ・・・(4)
  
  (3)より、 v₂ = aV₂ だから、
  
  こうして、 v₂ , V₂ が得られた。
3. ｢二度と地球に帰ってこなくなる｣のは、iiにおいて a→∞ のときと言えるから、
  
  あるいは、A点と｢無限遠点｣とでの｢エネルギー保存則｣から、
  
  と、同じ結論が得られる。

慣性力

加速度をもって運動している「観測者」から見ると、｢観測対象｣には、
- 大きさが、その｢観測対象｣の質量と、｢観測者｣の加速度の積に等しく、
- 方向が、｢観測者｣の加速度の反対向き、
であるような見かけ上の力が作用しているように見える。
これを｢慣性力｣と呼ぶ。
これは次のように考えられる。
- =m ・・・｢運動方程式｣：｢外力｣の合力がゼロでなければ、これに比例した｢加速度｣が発生する。
- = 0 ・・・｢つりあいの式｣：｢外力｣の合力がゼロならば、｢加速度｣は発生しない。
  
  ところが、上の式の右辺を｢移項｣して、
- -m = 0
  とすれば、右辺がゼロなのだから、形の上では、｢つりあいの式｣になっているではないか！
｢慣性力｣とは、｢運動方程式｣を｢つりあいの式｣に、｢読みかえる｣技術なのである。

【例1】右向きに加速度a[m/s²]で進む車内の天井から糸でつりさげられた質量m[kg]の物体。

地上の観測者から見る	車内の観測者から見る

鉛直方向(つりあいの式) Tcosθ-mg=0 水平方向(運動方程式) Tsinθ=ma 物体は、運動している！	鉛直方向(つりあいの式) Tcosθ-mg=0 水平方向(つりあいの式) Tsinθ-ma=0 物体は、静止している！

【例2】向心力S[N]を受けて速さv[m/s]の｢等速円運動｣をしている質量m[kg]の物体。

地上の観測者から見る	物体上のの観測者から見る

運動方程式物体は、運動している！	つりあいの式物体は、静止している！このときの｢慣性力｣を特に「遠心力」と言う。

【練習】水平面上に、これと角度θをなす斜面を持つ質量 M kg の台が置かれている。水平面から高さ h m の斜面上(A点)に質量 m kg の小物体を置き、静かに手を放す。

この後の小物体および台の運動について考える。水平面と台との間に摩擦はなく、小物体と斜面との間の動摩擦係数を μ' とする。

小物体が台から受ける垂直抗力をN₁、台が床から受ける垂直抗力をN₂、台と小物体の間に作用する動摩擦力をf、
水平面上にいる観測者からみた台の加速度の大きさをb[m/s²]、
台上にいる観測者からみた小物体の（相対）加速度の大きさをa[m/s²]として、これらの値を求めよ。

水平面上にいる観測者から見た、台の運動について考える。鉛直方向｢つりあいの式｣ Mg - N₂ + N₁cosθ + fsinθ = 0・・・(1) 水平方向｢運動方程式｣ N₁sinθ - fcosθ = Mb・・・(2)
水平面上にいる観測者からみた、小物体の運動を考えようとしても、加速度の方向がわからない。そこで観測者を台上に移し、「慣性力」をもち込む。
台上の観測者からみた、小物体の運動。斜面に垂直な方向｢つりあいの式｣ mgcosθ - N₁ - mbsinθ = 0・・・(3) 斜面に平行な方向｢運動方程式｣ mgsinθ + mbcosθ - f = ma・・・(4) 動摩擦力 f = μ'N₁・・・(5)

以上5式から、5個の未知数N₁ , N₂ , f , a , bについて、解けばよい。結論のみ示す。
,

微分とは、『細かい割り算』のことである。タテ軸の変量を横軸の変量で微分すると、グラフの接線の傾きが得られる。タテ軸の変量が横軸の変量に『比例』しているという特別な場合は、別に微分と大げさに言わなくても、割り算すれば、その直線の傾きが得られる。	積分とは、『細かい掛け算の足し算』のことである。タテ軸の変量を横軸の変量である区間について定積分すると、グラフより下にある部分の面積が求められる。タテ軸の変量が定数であるという特別な場合には、別に積分と大げさに言わなくても、掛け算すれば長方形の面積が得られる。

『道のり』を『時間』で割れば、『速度』だ、と教えられた。でも、正確に言うとそうではなくて、『変位』を『時間』で微分したものが、『速度』だ。	『仕事』は、『力』かける『移動距離』だ、と教えられた。でも、正確に言うとそうではなくて、『力』を『変位』で積分したものが、『仕事』だ。

	等速直線運動	等加速直線運動
加速度 [m/s²]
↑:t[s]で「微分」、↓:t[s]で「積分」
速度 [m/s]
↑:t[s]で「微分」、↓:t[s]で「積分」
変位 [m]

	運動方程式(y方向のみ) -mg=ma_y
x方向	y方向
a_x=0 v_x=v₀cosθ x=v₀tcosθ	a_y=-g v_y=-gt+v₀sinθ y=-gt²+v₀tsinθ

sin型(φ=0)	cos型(φ=π/2)
-sin型(φ=π)	-cos型(φ=-π/2)
三角関数相互の「不思議」な性質