チェリーズ・ストーリー



ここから続く

チェリーズ・アルバム

しばらく月日がたって、そう、9月に来たでっかい台風は18号だったかな?その頃からこの二匹の子供たちはうちのベランダに住み着くようになった。特にチェリビーはここが気に入ったらしく、いつも手すりの上で器用に昼寝したりしている。ショーコちゃんはちょっとシャイな性格、なのか、ごはんだけは食べにくるが、そそくさと帰ってしまうことも多い。で、チェリーがまた妊娠したみたいだ。おなかが大きくなって、またすさまじい食欲を示し始めた。今度はいつ生まれたのかよくわからなかった。野良猫の「気持ち」なんて想像してみても仕方ないが、今回はなんか態度が「よそよそしく」感じられて、さびしかった。

自分でもほんとに、いよいよ変態じみてきたな、と思うんだけど、このごろ本気で猫相手に「恋」してるんじゃないか?と思うときがある。外から帰宅すると駆け寄ってきて待ちかねたようにごはんを要求されたりすると、抱きしめたくなるほどうれしいし、二三日顔を見ないようなことがあれば、心は千々に乱れる。

子供が生まれるとやっぱり母親はナーバスになるんだろうな。うちにいればいつも餌にありつけるのに、それだけでは居心地がいいとも言えんのだろう。うちのベランダには既に通い猫や住み着いたのやらが多すぎるから、敬遠したんだろうな。段ボール箱にタオル敷いて隠れ場所作ったり、いろいろ「誘致」してみたけど、ごはん食べたらさっさと帰っていく。「失恋」した気分だった。

犬の散歩の途中に近くの民家の納屋みたいなところに、子猫に三匹と共にいるのを見かけた。こんなところに子供隠してたんだ。こんなところから子猫連れて道路渡ってうちに来たりするの危ないから餌運んできてあげたいけど、よそ様の敷地だからね、あんまり勝手なことできないし、・・・。

あちこちの民家の庭を移動しているらしく、いろんなところで見かけた。やがて子猫は1匹に減ってしまい、その子も目を患ってるみたいだった。両目とも腫れ上がってる。何とかしてあげたいけど、母親が近寄らせてくれない。

今年は本当に台風が多かったね。何度目の台風だったか忘れたけど、多分それがきっかけで、結局子供つれてうちに引っ越してきた。



私は二階建ての一軒家の二階部分を借りて住んでるの。階下に住んでるおばちゃんは偶然私と同じ関西人で、時々立ち話はするけど、特に親しいわけでもなかった。ある日、犬が激しくほえるので出てみると、おばちゃんが手のひらに子猫のせて階段上がってきた。 「この家族、うちの裏庭に住み着いてますねん。いや、うちも猫好きやし、それはぜんぜんかましませんねん。そやけど、このこ、『めー』病気でっしゃろ?うちではよう面倒見いひんし、にいさんやったらおせわしてくれますやろ?『共同で飼う』ゆうことにしましょ!」

『めー』とは、言うまでもなく関西弁で「目」のことだが、いや、うれしかったね。「共同で飼う」には、ほろっときたね。ご近所が温かい目で見てくれることが、猫の家族、特に子猫のためには一番のしあわせなんだ。私がチェリーの子どもの目やにぬぐったり目薬さしたりしてるの見ててくれたんだ。

こうして3家族の「共同保育」が始まった。階下には小さいながらも草木の生えた庭があり、昼間はそちらのほうが日当たりがいいから、チェリー一家はそこでひなたぼっこしてる。おばちゃんはダンボール箱に古着を敷いたりして寝床を作ってくれている。ミルクも出してくれている。よく知られていない事実だが、本当は牛乳には「乳糖」が含まれていて、犬猫にはこれを分解する酵素がないから、喜んで飲んでくれるが、おなかをこわしてしまうことが多い。だけどそんなこと口がさけても言わない。おばちゃんの好意に感謝だ!

私が仕事から帰ってくると、物音を聞きつけて全員で二階に上がってくる。目の見えにくい子猫も、一段一段階段をヨタヨタ登ってくる。時々はママが首根っこをくわえて運んでくる。いつも「ほげー、ほげー」ってでっかい泣き声でママを呼んでるから、ミニチェリー、または「ほげほげキャット」って名前にした。一日二回、コットンで目やにをふき取り目薬を差す。良くなってくれるといいけどね。

固形物も食べられるみたいだけど、何よりのお気に入りはチキンスープみたいだから、毎日用意した。いつまでもぺちゃぺちゃ飲んでる。



で、冒頭の話につながる。台風23号、沖縄本島は丸々20時間くらい暴風雨圏の中にあった。

子猫を抱えた母猫はナーバスになってるから、いきなりほかの猫と一緒にはできない。家族四人、小屋の中に入れた。「小屋」っていうのは、私が「うつ」にかかったばかりのころ、「作業療法」のつもりでやった日曜大工の作品の一つ。底辺1メートル×1メートル、高さ2メートル、3階建て、1回にトイレ付き。豪華マンションだぜ!手術受ける前、絶食しなきゃならない時などに、「隔離」するために重宝したよ。

チェリー一家、さすがに不安そうで、四人肩寄せ合ってちじこまってる。でも私はしあわせだった。「恋人」が部屋に「お泊り」してくれたみたいだった。

外は暴風、餌は一応出してあるけど、この雨風じゃ、他の野良は食べに来るチャンスもないかも。心配だったが、大体は野良暦3〜4年の「百戦錬磨」だから、うまく隠れているだろう。子猫のディーツーだけは、すばしこくて捕まえられないから、外に出したままだけど、幸いベランダにしつらえた雨宿り用の小屋に入っていてくれている。

仕事も休み、朝からお酒を飲んで、一家団欒。ほんとにしあわせだった。

「ほげほげキャット」だけは時々外に出して、目の手当てをしたりするついでに、そこらへんを歩かせてみた。うちの猫たちも興味津々、とくにオーちゃんは、なめなめしてあげたりして・・・。





つづく

チェリーズ・アルバム 家族 写メールアルバム

戻る