Illness,
Not As
Metaphor
ともちゃんは、猫エイズ(FIV)とカリシ・ウィルスに感染している野良猫。
カリシ・ウィルスにはワクチンがあるが、エイズには感染を予防する方法がない。だから、他の猫と一緒に暮らすことは出来ない。
バスルームに縦1m20、横90センチ、幅30センチの小屋を作って、迎え入れた。
カリシ・ウィルス感染症の症状なのだろう、舌の中央部に真っ赤に炎症が出来ていて、これでは食べ物を食べるのもつらいだろうし、いつもよだれを垂らしてしまっている。エイズのせいで免疫力が低下し治りが悪くなっている。
育ち盛りの子猫なのだし、とにかく柔らかいものを食べさせて栄養をつける、抗生剤を飲ませる、口内を常に洗浄する、それが私たちの任務だった。

子猫用の柔らかく、かつ栄養価の高い高価な缶詰、他の猫との感染を防ぐためにビニール手袋と消毒薬。口内洗浄にはうがい薬の「イソジン」を20倍に薄め、これを綿棒の先に巻き付けたコットンパフに浸して垂らすのだそうだ。これらの物を準備した。
ともかく初日の仕事は完了。なかなか大変。ビニールの手袋はあっさり爪で破られた。口内洗浄、綿棒をつっこむなんて無理。コットンにぼとぼとに浸して歯の隙間からたらすくらい。
抗生剤と抗菌剤、2種類の錠剤を毎日飲まさなければならない。猫に錠剤を飲ませる手順はこんな感じ。顔を上に向けて左手の親指と人差し指で口の両端を押さえる。右手の親指と人差し指の間に錠剤を用意して、中指で下あごを押し下げる。喉の奥のなるべく中央に錠剤を落とし、口を閉じる。ひゅっと息を吹きかけてびっくりさせて飲み込ませる。やってみるとしかしこれがなかなかうまく行かないのだ。
練習のかいあって、なんとか投薬には成功。しかしものすごく爪が伸びていて、三か所負傷。
エプロンはとても役に立った。くるんで手足を押さえられる。くすり飲み込んだ直後、びっくりしたのか、エプロンの上にコロコロのうんちをぼたぼた落としてしまった。
しばらくエブロンの上でじっとしている。温もりが伝わってくる。とりあえずここまで生きてきたんだから、もう少し生きてもらうしかないだろう。

こんなにひどい舌炎だから、ものを食べるのはつらいだろうに、この子のものすごく意地汚い食べっぷりを見ていると、食べることへの欲望、生き延びることへのはっきりとした意志が伝わってきて、なんか目頭が熱くなってくる。

今日は天気がいいから、屋上でひなたぼっこをさせてあげよう。


龍宮城だより