沖縄タイムス2001年3月7日より
普天間代替滑走路2千M/規模決定、米軍も了承
米軍普天間飛行場移設に伴う代替施設協議会(主宰・橋本竜太郎内閣府沖縄担当相)の第六回会合が六日午後開かれ、滑走路二千メートルを基本に駐機場など民間施設は十ヘクタールとすることを了承。施設規模の骨格が事実上決定した。同協議会では次回会合以降、代替施設基本計画に盛り込む工法や建設場所について、具体的な協議に入る。ただ、生活や自然環境への配慮に加え、移設予定地周辺住民の合意形成など難題も多く、着工までには曲折が予想される。
滑走路の長さと民間利用面積について、河野洋平外相は「米軍の運用所要上、支障がないと考えている」と発言。米軍側も了承していることを明らかにした。扇千景国土交通相も規模については理解を示した。
橋本担当相は協議会の総括で、基本的な滑走路の規模のほか(1)軍民双方の所要の確保を図る中で安全性や環境面に配慮した最小限の規模とする(2)移設先・周辺地域振興協議会で振興策について意見交換する―ことを確認した。
稲嶺恵一知事は代替施設建設に当たって、自然環境への配慮と保全、ジュゴンやサンゴなど自然環境への長期的な調査実施を要望。騒音についても、周辺集落ではうるささ指数(WECPNL)が環境庁の定める「航空機騒音にかかわる環境基準値」の七〇以下にするよう求めている。
岸本建男名護市長は十五年の使用期限と基地の使用協定も並行して進めてほしいと強く要望。「米軍所要のみならず民間所要についても最小限の規模とし、地元住民の生活環境や自然環境に著しい影響が及ばないよう最大限の配慮が必要である」と政府に注文した。
宮城茂東村長、浦崎康克宜野座村長は住民生活への配慮と名護市同様、県外基地視察を行えるよう要請した。
一方、川口順子環境相は、ジュゴンやサンゴなど自然環境への影響を最小限にする必要があると指摘、「ジュゴンや藻場の生息に深く関係する波、潮流、日照などに十分留意する必要がある」と述べた。
急ピッチに戸惑い
米軍普天間飛行場の移設問題を検討する代替施設協議会で6日、国と県、地元が滑走路を2000メートルに設定することで了承した。民間部分の面積を含め、おぼろげながら姿をのぞかせ始めた代替施設の具体像。移設先の名護市では、工法をめぐって対立する賛成派同士の思惑が交錯。反対派は、急ピッチで進む作業の矛盾を指摘した。
名護市内の建設業者は、まず滑走路の規模が決まったことをいぶかる。「通常の建設事業では先に場所があり、その制約の中で規模が決まる。既に場所や工法は決まっているのではないか」
地元豊原区の宮城秀雄区長は「頭越しには決めないと言っておきながら地元には一切説明がなかった」と憤慨、県の姿勢を「一方的」と批判する。十ヘクタールの民間区域についても「要望したことはない」。今後、名護市などに根拠をただす構えだ。
埋め立て案を推進する辺野古活性化促進協議会の島袋勝雄会長は「行政がしっかり吟味したこと。後は淡々と待つだけだ」と自信をのぞかせた。
一方、沖合三キロへの移設を求める久辺地域振興促進協議会の比嘉勝正活動部長は「県はなぜ埋め立てにこだわるのか。地元としては、リーフ内の豊かな海を犠牲にしてまで県民の財産をつくる必要はない」と言い切る。
「巨大な構造物を造ればジュゴンのすむ環境に破壊的な影響がある。極力少なくするというが、不可能だ」。二見以北十区の会の成田正雄世話人はこう語り、岸本建男市長の受け入れ条件が破たんしたと断じた。
ヘリ基地反対協の大西照雄代表委員も「ジュゴンの生息を確認しながら、同じ会議の場で建設の具体的な検討を進める。やり方がでたらめだ」と批判した。
粕谷俊雄三重大教授
重要な保護海域証明
科学的な報告書は、信頼性を評価したり、責任の所在を明らかにするために、調査担当者やデータのとりまとめを行った者の名前を示すのが普通だ。が、防衛施設庁の報告書は個人名は一切伏せられている。これはその評価を困難にし、時に信頼性を疑わせる原因にもなる。
今回の調査のポイントは沖縄本島全域にわたって、かつ組織的な航空機調査をしたことだろう。
金武の海域から天仁屋崎の海域までジュゴンを目視し、潜水調査では“はみ跡”も確認された。さらに西海岸の古宇利島近くでもジュゴンと“はみ跡”が確認されたことは、喜ばしいことと思っている。
沖縄本島東海岸へ行くと、ジュゴンが比較的多く常住していて、ジュゴンの保護の上で重要な海域である―という、われわれが達した「結論」が今回の調査でも裏付けられた。
以前われわれが実施した調査では、ジュゴンは昼間は何十メートルも深い海にいて、夜、浅いところにやってくるらしい、と示したこともある。施設庁の調査でも同様の結果が得られている。
施設庁の調査は沖縄全域で綿密に行われたもの。重要なポイントとして見落としてはならないのは、今回の結果にある海域以外では、ジュゴンが見つからなかったということ。これは何を示すかといえば「やっぱり沖縄のジュゴンにとって、大切な場所はあそこしかないんだ」ということ。ヘリ基地建設候補地の辺野古周辺は、ジュゴンの分布域の真ん中にある。重要であることを歴然と示している。(談)
誘致には青写真を
名護市辺野古周辺海域に建設が予定されている軍民共用空港。県の想定では二千メートルの滑走路にボーイング767型の中型ジェット機などが、関東、関西、中部地区に一日三往復の計六便就航する予定だ。今回の代替施設協では、民間地域の面積は駐機場を含むエプロンや旅客ターミナル、駐車場など約十ヘクタール(百万平方メートル)としている。
県内飛行場でこれに類した規模を持つのは宮古空港。二千メートルの滑走路に、空港面積は約十二ヘクタール(百二十四万平方メートル)。那覇や東京間を一日約二十五便が就航している。軍民共用空港は、これに米軍普天間飛行場の機能を維持する施設が加わると考えられる。
国内で唯一、米軍と飛行場を共用するのは青森県の三沢空港(滑走路三千五十メートル)。年間発着数は約六万回(三沢市役所)といわれ、民間旅客機は一日十二便が運航していることから、民間機の利用率は全体の約七%と推定される。
航空評論家の青木謙知さんは「最近の地方空港は規模も大きくなっており(代替移設の軍民共用空港は)それほど大きくはない」とみる。
「軍民共用空港だと、どうしても民間は増便できない。民間空港は増便で発展するが、便数が少なかったりアクセスが悪いと結局、那覇空港を利用するだろう。需要がなければ佐賀空港のように悲惨な例になる」と指摘。
「(使用期限の)『十五年』も決まっていないが、将来民間空港として利用するのであれば、軍がいる中で難しいが、十五年の期間で具体的に、観光やビジネスを誘致する青写真をつくる必要がある」と話している。
沖縄タイムス2001年3月6日より
ジュゴン5頭を公式確認/「普天間」代替協で報告
米軍普天間飛行場の移設に伴う、代替施設協議会(主宰・橋本竜太郎内閣府沖縄担当相)の第六回会合が六日、首相官邸で開かれた。この中で、防衛施設庁はジュゴンの生息状況にかかる予備的調査の結果、沖縄本島東側で五頭、西側で一頭の合わせて六頭(五頭は別の個体)確認したことを報告。政府による初の調査で、少なくとも五頭のジュゴンが移設予定地に近い沖縄本島東側を中心に生息していることを明らかにした。政府は今回の調査で、代替施設の移設によって影響を受ける自然、生活環境などに関するデータは出そろったとしており、次回会合からは代替施設の規模、工法の具体的な検討に入る。ただ、予備的調査とはいえ、国際的な自然保護団体や米国政府機関などが保護を求めているジュゴンの生息が公式に確認されたことは、今後の移設作業にも影響を及ぼしそうだ
協議会には、政府側から橋本担当相のほか、河野洋平外相、川口順子環境相、扇千景国土交通相、斉藤斗志二防衛庁長官、仲村正治沖縄担当副大臣が出席。沖縄側から、稲嶺恵一知事、岸本建男名護市長、浦崎康克宜野座村長、宮城茂東村長らが参加した。調査報告後は、早ければ五月ごろにもまとめられる代替施設の基本計画についても意見を交わした。この中で稲嶺知事は小型航空機やコンテナ輸送ができる民間施設を要望した。
協議会後、岸本市長はジュゴンの生息について「アンケートでは金武湾での発見が多かったが、これは東海岸全部同じ条件ではないか」と述べ、沖縄本島東側一帯はジュゴンの生息地として重要との認識を示した。
その上で、環境影響評価(アセスメント)についても「二、三年かかると思うがきちっとした調査を要望しなければならない」と述べた。
ジュゴンの予備的調査は、二〇〇〇年十月三十日から〇一年一月九日まで沖縄本島全域で行われた。防衛施設庁の委託を受けた民間の環境調査会社が(1)航空(2)アンケート(3)海上(4)食跡確認―などの項目ごとに調査した。
小型航空機とヘリコプターによる航空調査で確認されたジュゴンは延べ六頭。五頭については背中の傷あとや体長の長さなどからそれぞれ別の個体だった。ジュゴンが目撃された海域周辺の藻場では、沖縄本島東側で一海域、西側で一海域の二海域で海草を食べた跡があった。このうち、移設予定地の名護市辺野古周辺海域の藻場では十二月二日から十一日までの間に四回、ジュゴンの食べ跡が確認された。
本格調査を要望/代替協ジュゴン報告で専門家
米軍普天間飛行場の移設に伴う代替施設協議会の予備的調査結果で、候補地のキャンプ・シュワブ周辺海域にジュゴンの生息があらためて確認された。報告を受けた専門家や保護運動に取り組む地元関係者らは「当然の結果だ」と冷静に受け止めながらも、「本格的な調査を望む」と長期間の環境アセスメントの必要性を求める声が相次いだ。
香村真徳琉球大学名誉教授(藻類学)は、「ジュゴンの調査には専門的で高度な知識、経験が必要とされる」と、今回の調査では全容が把握できないと前置きした上で「(民間の)専門家の調査で、沖縄本島のジュゴンは多くても十五頭前後、東海岸を中心的なえさ場にしているとの結果が出ている。防衛庁の調査結果もほぼ、これに合致すると言える」と分析した。
昨年十月の国際自然保護連合(IUCN)の総会に出席した世界自然保護基金日本委員会(WWFJ)の花輪伸一さんは「IUCNは環境影響調査を勧告した。この短期間での予備的調査だけで済ませれば国際的信義に反する。きちんとしたアセスで軍事基地建設のジュゴンへの影響を評価し、複数の代替案を検討すべきだ」と求めた。
ジュゴン保護基金委員会の東恩納琢磨事務局長は「ジュゴンだけでなく、名護の東海岸域の生態系を守るため、自然保護区域の指定を求めたい」と強く要望した。「世界中でジュゴン保護は常識で、生息していない米国でさえ、環境指針に盛り込んでいる。絶滅させるようなことがあれば、日本は世界に信頼されなくなる」と説明した。「本格調査は、専門の環境省が四季を通じて、最低三年間実施してほしい」と語った。
解説・行動パータン未解明
政府は「予備的」とはいえ、国の天然記念物・ジュゴンが米軍普天間飛行場の移設予定地に近い名護市辺野古周辺海域を含む沖縄本島東海岸で生息することを初めて確認した。代替施設がどのようなものになるにせよ、約二千メートルの滑走路で軍民共用空港を想定した構造物が造られる周辺海域のジュゴンに「著しい影響を与えない」(政府方針)工法、規模、建設場所はどのようなものか。ジュゴン保護を決議したIUCN(国際自然保護連合)など世界的な自然保護団体が注視する中、政府、県、それに名護市など関係自治体にとっては難しい対応を迫られる局面も出てきそうだ。
政府は、これまで自然保護団体などが求めるジュゴンの生態調査について「知見がない」という理由で消極的な対応をとってきた。環境行政を担当する環境省ですら、独自の生息調査の実施について「防衛施設庁が行っている」(川口順子環境相)など、否定的な見解を示してきた。
しかし、防衛施設庁の調査では、移設予定地近くに少なくともジュゴン五頭の生息が明確になった。しかも、確認されたジュゴンの食跡からは海草を食べる量が極めて少ないなど、食性や行動パターンがほとんど解明されていない。
沖縄本島周辺のジュゴンは生息域の北限とされ、他の地域とも隔絶した個体群で、絶滅の危機に瀕(ひん)しているとされる。こうした中、ジュゴンの保護に向けた環境影響評価(アセスメント)など、早急な対策を求める声が国内外で高まるのは避けられない。
政府は、今回の調査報告で「基本計画策定に向けた諸条件についての勉強会は最後になる」(内閣府幹部)としており、四月上旬にも開かれる第七回代替施設協議会では工法、規模などを具体的に検討する。
昨年八月から積み重ねてきた協議で実務者レベルでの検討は終わり、今後は「(工法を含めた基本計画策定を)だれが判断するというより、協議会の中でどのような結論を得ていくかということになる」(同)。夏までにはまとめられる基本計画の策定に向け最終段階に入ったといえよう。
ただ、ジュゴン保護など国際的に注目される環境問題に加え、工法ごとに意見が割れる地元の合意形成など、課題は山積している。基本計画策定の作業が政府のシナリオ通りに進むかは、依然として不透明だ。(東京支社・平良武)
ジュゴン調査要旨
「ジュゴンの生息状況に係る予備的調査」の結果について(要旨)
- 一、調査結果
- 1・航空調査・沖縄本島周辺海域について、小型飛行機で全海域を調査するとともに、過去にジュゴンの目撃例のある海域では、さらにヘリコプターで調査。
- 沖縄本島東側で五頭、西側で一頭、計六頭のジュゴンを確認(一覧表・地図参照)。
- ジュゴンの個体識別により、五頭は別の個体であることを確認。
- 2・アンケート調査・食跡確認調査を実施する海域に関係する十漁協の漁業関係者を対象に目撃情報を収集。
- アンケート回答数五百四十二のうち、ジュゴンの目撃件数は三十七件。
- ジュゴンの目撃時期は、十年より前が八件、六―十年前までが六件、五年前までが二十三件。
- 3・海上調査・辺野古周辺海域において船上から目視で調査。
- 4・食跡確認調査・観察員がジュゴンが目撃された海域周辺の藻場海域に潜り、ジュゴンが海草を食べた跡を確認
- ジュゴンによる藻場の食跡は沖縄本島の東側で一海域、西側で一海域の計二海域で確認。
- 藻場において、周囲の一様な海草の植生に比べ、一定の高さで面状または帯状に刈り取られたような状態のものを、ジュゴンによる食跡と判断。
- ジュゴンが海草を食べた量を食跡から推定すると、少ないもので〇・二キロ、多いもので六・五キロで、成体が一日に三十キロ程度の海草を食べるといわれているのに比べ、極めて少量。
- 二、考察
- (1)生息頭数
航空調査で確認した延べ六頭のジュゴンについて、個体識別により、五頭は別の個体であることを確認した。したがって、今回の調査期間において、沖縄本島周辺には、少なくとも五頭のジュゴンが生息していた。
- (2)確認海域
航空調査により、沖縄本島東側の名護市嘉陽―宜野座村周辺海域で五頭、西側の古宇利島周辺海域で一頭のジュゴンを確認するとともに、沖縄本島東側の辺野古周辺海域および西側の屋我地島周辺海域において食跡を確認した。
また、アンケート調査により沖縄本島東側では二十六件、西側で十一件の目撃情報を収集した。
- (3)行動パターン
ジュゴンが確認された海域の水深は三〇から七〇メートルで、いずれもさんご礁の沖側に位置している。また、ジュゴンが確認された時間帯は午前八時三十分から午後零時三十分で、およそ日中の下げ潮―干潮時に該当している。
ジュゴンの行動については、昼間の満潮時に浅瀬の海草藻場で採餌を行い、干潮時や日中はやや深い海域に戻るといわれているが、今回ジュゴンが確認された状況は、この行動パターンにいわれている状況に合致している。
- (4)食性
今回確認された食跡において食べられている海草の量は、確認されたジュゴンの頭数に比べて極めて少ない。したがって、今回確認されたジュゴンは、食跡が確認された海域や他の海域において、明確な食跡が残らないほど植生密度の薄い海草藻場などで採餌している可能性が高いと考えられる。
- 調査方法
- 航空調査
- 小型飛行機およびヘリコプターは、海岸部と沖合の間を東西に往復する方法で飛行。
- 調査海域は、水深九〇メートルまでを設定(沖合約五キロから十キロ)
- 期間は二〇〇〇年十月三十日から同年十二月十六日。その間、小型飛行機が十日、ヘリコプターが十一日調査。
- 海上調査
- 辺野古海域で船上から目視で調査。
- 期間は二〇〇〇年十一月二十三日から同年十二月四日で、日数はその間の七日。
- 食跡確認調査
- 期間は二〇〇〇年十一月六日から同年十二月十八日で、調査日数は、その間の二十五日。
沖縄タイムス2001年3月6日より
17日に基地移設反対「県民集会」/3千人目指す
米軍基地の県内移設に反対する労組、市民団体などで組織する「普天間基地・那覇軍港の県内移設に反対する県民会議」の代表は六日午前、県庁で会見し、十七日に宜野湾市立普天間中学校で、「米軍による事件糾弾!海兵隊の撤退と、基地の県内移設に反対する県民集会」を開くと発表した。三千人以上の結集を目指す。
山内徳信代表は「米軍の沖縄駐留には限界が来ている。事件のつど綱紀粛正といっても効果はない。県議会などの一連の決議は歴史の流れであり、民衆側も声を上げていきたい」と決意を述べた。県民集会では、海兵隊の撤退と基地の県内移設の撤回を求める決議を採択。集会後に稲嶺恵一県知事らに要請していくという。当日は北中城村の在沖米海兵隊基地司令部ゲート前までデモ行進も予定している。