World out of Order
一価の酸と一価の塩基だったら、強酸だろうが弱酸だろうが、強塩基だろうが、弱塩基だろうが、等モルで中和が完了する。アンモニアという弱塩基を、硝酸という強塩基で滴定する場合について考えると、はじめのアンモニアの水溶液の中では、電離度が0.01くらいだとすれば、全体の1パーセントくらいしか電離していないから、水酸化物イオンの濃度はきわめて低い。だから、これと中和する水素イオンも、少しですむだろう、というのが「素人考え」で、「系」の中に、外部から水素イオンが入ってくる、これによって中和反応が進行する。「外部」から加えられた「変化」そのものによって、「平衡」が破れ、電離が進行し、ついでながら濃度も変わるから、電離度さえもが変化する。これは、どう考えたって「動的平衡」というかなり難解な概念を使わなければ説明できないことではあると思うのだが、それはさておき、では、もうひとつの問題。

中和においては、等モルの水素イオンと水酸化物イオンが化合して、水を作り、「消えてなくなる」、上の例ならば、中和「直前」の、最後に加えた1滴の硝酸に含まれていた水素イオンが、「最後」のアンモニア分子の電離を促進し、こうして中和が完了する。したがって、中和完了後の溶液中には、水素イオンも、水酸化物イオンも、存在しない!

でも、これも素人考えで、上の例での「弱塩基と強酸」の滴定、「だ・か・ら」、中和「後」の溶液は酸性を示す、ということは、水酸化物イオンより「たくさんの」水素イオンが、存在する。ならば、上の推論は「ウソ」なのか?

暗記物としては、「強いものが勝つ(!)」なる、ほぼ知性のかけらも感じられない「法則」で結論を導くことが可能なのだが、もう少しましな説明として流布しているものとしては、「実は」、中和完了後の水溶液中では、ひそかに「塩の加水分解」なる過程が進行し、硝酸アンモニウムは「弱塩基強酸塩」だから、またしても「強いものが勝っ」て、酸性を示す、といってしまえば元の木阿弥だから、そうは言わないで、中和完了点で、まったく無反応のまま大量に残されているアンモニウムイオンと、硝酸イオンという二つのイオンのうち、硝酸イオンは、元来硝酸という強酸が電離して得られたものだから、再び水素イオンと再結合することはないのに対して、アンモニウムイオンは、アンモニアという弱塩基由来のイオンだから、水溶液中に残されている水酸化物イオンと再結合して、アンモニア分子を作る反応が進行してしまう。だから、水酸化物イオンが減少して、水溶液は酸性を示す。

物事の順番が違うだろ?中和が完了して、「から」、塩の加水分解が、「起こる」わけじゃないだろ?それはその通りなのだが、さまざまな「俗説」のここが不正確だ、とあげつらって得意になることが、ここでの目的では、いや、どこでの目的でも、ない。
戻る