World out of Order
多数の過程が同時に進行し、それぞれの中間的な「結果」がそれぞれ他の過程の進行に相互に影響を及ぼし、影響を受けた結果生じた変動が収束して、暫定的な安定に向かうのか、もしくは、発散して「系」そのものが壊れてしまうような形で終わるのか、自然界では、ごく普通にありそうな事態で、数式であるならば、近似的なものであったとしても、いくつかの微分方程式を列挙してみるだけで、「記述」できてしまったことになりそうな事柄を書き記すのに、私たちの言葉はどうしてこんなにも、「もどかしい」のだろう。

「言葉」が間違っているのだろうか?その誤った言葉を前提として組み立てられている、もしくは、その誤った言葉のシステムを生み出してしまった「アタマ」が悪いんだろうか?それならそれでもよいのだが、わるいならわるいなりに、私が化学の授業中、黒板に向かいながら考えていたのは次のようなことだ。

実際、上の「中和」に関する議論は、どれも、それほど正確ではないにせよ、どれも、それほど、間違ってもいない。でも、中和完了時には、「水素イオンも水酸化物イオンも、全部使われたから、ない!」という「事実」と、いや実は「水素イオンも水酸化物イオンも、ちゃんとあって、しかも水素イオンのほうが、多い」という「事実」が「折り合えない」と感じられてしまうのは、私たちの「アタマ」が、もしくは言葉が、「ケタ数」を処理することに、決定的に慣れてないからなのではないか?

少し深入りになるが、ちゃんと説明します。上の例で、次のような、ありそうな数値を設定して見ます。0.1モル/リットルのアンモニア500ミリリットルを、0.1モル/リットルの硝酸で中和滴定するとしよう。この濃度でのアンモニアの電離度が0.01だとすると、はじめに容器の中で電離している水酸化物イオンの量は、0.1かける0.5かける0.01すなわち、5×10-4モルに過ぎないから、これと過不足なく中和する硝酸の量も、500ミリリットルかける0.01で、5ミリリットル!というのが「センターテスト」のありふれた「ひっかけ問題」で、もちろん誤りです。

硝酸が滴下されることで、アンモニアの電離平衡は順次「右に移動」し、最終的には「全部」が電離させられ、硝酸500ミリリットル滴下した時点で中和が完了する。ついでながら、中和が完了したことが観測者に「わかる」のは、pHが劇的に変化して酸側に移行してしまうからで、ということはそのときはすでに中和点を過ぎているのであって、「今、中和している」ということを、誰も、原理的に、認識できない、人間が認識するのは、つねに「あとの祭り」だ、という話は、似てはいるが別の論点なので、深追いしないことにする。
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