Permanent
Vacation



待合室の先客が呼び出され、一人去り、また一人。ずいぶん長い時間待たされた。でも精神科の診察待ちでいらいらしてどうする。「おら、おまえらきゃくなめとんか!」と暴れるわけにもいかず、プロのメークアップアーティストやヘアデザイナーがよってたかって、視聴者の素人さんの顔を作り変え、イメージチェンジして彼氏をびっくりさせましょう!みたいなテレビ番組を、飽かずぼんやり眺めていた。口をうすく開けて笑ってたかもしれない。
そういえば、もうここ何年も、心の底から、おなかの皮が痙攣して痛くて涙が出てくるくらい、そんな風に笑った記憶がない。どこかに吉本の新喜劇や漫才ばかり一日中放映しているテレビ局はないものだろうか?

やっと呼び出されて、初診の場合、まずは先生の診察の前にケースワーカーさんの問診が行われる。0.3ミリくらいの細い水性ボールペンの几帳面な小さな字で、カルテが埋められていく。一番上の段に2センチくらいの「主訴」っていう欄があって、その下の特に区切られていない場所には「主訴」の詳細が書かれるのだろう。
既往症、治療歴はもちろん、仕事の時間帯、家族構成、学生時代の部活経験の有無、結婚歴、などなど、尋ねられればなんでもすらすらと答えてしまいそうだった。誰でもいいから話を聞いて欲しい。プライバシーとかはさしあたりいいですから、ともかく何でも言いますから、そのかわり助けてください、そんな無防備で「バルナラブル(攻撃を受けやすい)」な状態が実は気持ちよかった。

A4版の用紙がきっちり埋まって、彼女の仕事は終わった。最後に「主訴」の欄に書きこまれた文字を、こっそり覗き込むと、「落ち込み」だって!なんだ、普通じゃん!


龍宮城だより