きっともとは大事に甘やかされて育てられた飼い猫だったのだろう。人間に対する警戒心がまったくない。「バーマン」という品種は特に耳がよいらしくて、確かに私たちの車の音を聞き分けて、真っ先に駆けてきた。階段を駆け登るときの後ろ足の動きが、「ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ」と軽やかに、本当にタヌキみたいだった。猫に名前つけるなんて初めてだったけど、「たぬき」は僕が命名したんだよ。

オスだったけど気が弱いほうだったし、けんかに巻き込まれてもいつもやられて小さな傷を作っていた。あまり遠出もせず、ここで他のメスたちと仲良く昼寝をしたり遊んだりしているのが好きだったみたい。
突然いなくなってしまったのは、オス同士のテリトリー争いに巻き込まれて、何か事故に遭ってしまったのかもしれない。考えてもしょうがないし、考えたくなかった。今にもそのもの陰から、あくびをして伸びをしながら「あーああー」って情けない声を出して、戻ってくるような気がしている。

どっかに私達みたいな物好きがいて、迷い込んできたこの子を見つけ、「タヌキ」って名前をつけ、あら病気みたいだから病院連れて行きましょって、どこか他の病院に連れて行かれて、今ごろ点滴入れられながらまた「うーううー」ってうなってるんじゃないか?
そんな「パラレル・ワールド」みたいな想像をしてみたり。

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